第9話 遺跡探索

 翌日、今日のルーティンは中止で日帰りの遺跡探索に出る。

不測の事態で日帰り出来なかった場合を想定して家畜は自由に出入り出来るようにしておく。

もしものことがあっても水の心配以外は牧草もあるしなんとかなるだろう。

探索準備でロープ(錬成品)、土(階段用)、食料(農地産)はインベントリに確保した。


「プチ、行こうか」


「わん」


 いよいよ遺跡探索に出る。目標はゴーレムの救出と備品倉庫から燃料石を得ること。

といっても今日は斜めの床を降りていくための階段を土魔法で作るという地道な作業をするだけだろう。

床が斜めというのは、移動に不都合なので、今日は地道に移動の足場づくりに専念するつもりだ。


 【ライト】の魔法を先行させ、足元と体の周りにも纏わせると、モバイル端末の指示に従い斜めになった床を下りていく。

建物的には横倒しで斜めになっている隣の部屋に行く感じだ。

扉を開けるとその先は廊下だった。隣が部屋だった場合はその広さが罠になるところだ。

そのまま落下すると落とし穴の底と同じになるからだ。

俺は土魔法で階段が作れるから登れるが、登る手段が何もなかったらそこで餓死することになっただろう。

つまり初日に落下した穴は生死を分けるほどの危険な罠だったわけだ。

あの時、偶然ダンジョンコアを破壊出来なかったら死んでいたところだ。

生きていてよかった。


 廊下の先を見ると、そこにある扉が開いていて、下の階へと降りていく階段が見える。

扉の先に進むと、そこは階段ホールになっていてかなりの深さまで降りていけるようだ。

建物の非常階段のように階ごとに扉がある。

互い違いに下へと行く階段の半分は頭の上に向かっている。

土魔法で階段を作りながら登りまた降りていく。

ダンジョンと違って階段探しをする必要がないのは有難い。

モバイル端末の指示によるとかなりの階数を降りる必要があるようだ。


 どうやら俺がねぐらにしている部屋は塔の最上階だったらしい。

この様子だと、俺が初日に落ちた穴はエレベーターシャフトだったのかもしれない。

一気に底まで行った感じだったからね。

途中から曲がりくねった坂になったので、そこからがダンジョンだったのだろう。


 塔らしきものを降り切ると、左右に廊下が広がっていた。

メイン回廊だろうか。建物が傾いているせいで上下に扉が見える。

これは魔導機関を直して早く水平を取った方が、後々のためになりそうだ。

上になっている部屋なんて梯子が必要になり入るのがめんどくさい。

備品倉庫がそんな配置ではない事を祈りたい。


 モバイル端末の案内に従い廊下を進むとまた階段があった。

二階ほど降りると上下に分かれた十字路に出る。

本来はただの十字路だが傾いたため上下への道になっているのだ。

ロープで体を固定し、土魔法で梯子を作りつつさらに下りることにする。

プチに梯子は無理だろうと抱きかかえようと横を見ると、プチが宙に浮いていた。


「プチ、なんだそれは?」


「れびてーしょん?」


 プチが重力魔法で浮いてました。

もしかして、この魔法を使えば楽に移動出来たとか?

今まで階段を作っていたのも無駄だったということ?

俺は一気に疲れが増した気がした。


 俺も【レビテーション】を唱えてみると、普通に宙に浮かぶことが出来た。

ただ、浮かんだだけでは移動できないため、風魔法(生活魔法)で風を起こし行きたい方向に風で押してもらう。

これにより移動がとんでもなく楽になった。


 暫く進んで、竪穴の途中で横の廊下に入った。

更に進むと俺たちは行動不能になっているゴーレムが居るという部屋の場所についた。

ゴーレムは下になっている部屋の底で身動きがとれなくなっているようだ。

例の罠に嵌る危険はゴーレムにもあったのだ。

俺は慎重に扉を開けると中を覗く。底が見えないぐらい広い。

そのまま【レビテーション】で浮きながら底まで降りる。


 そこは遺跡の車庫だったらしい。

何台かの車両が底に落ちて壊れていた。

これは遺跡が横倒しになって、固定されていなかった車が壁面側に落ちている、みたいな感じだろうか。


 いや、それよりも驚くところがあるだろ。

車だよ、車。この世界が俺が神様に望んだ通りのラノベ的中世レベルの異世界ならば、車があるのは異常だ。

まあ装甲車みたいな車だけどね。

これを修理すれば町まで行って買い物が出来るかもしれない。

サクッと収納に入れる。

周囲を見廻すと明らかな戦闘車両も見える。

上部に砲塔を備えた戦車風の車両だ。


「これがラスコー級戦車だったりして。あ、鑑定すればいいのか」


「【鑑定】」


『ラスコー級戦車。中破』


 うん。これも収納しておこう。

装甲車を修理するための部品取りぐらいには使えるだろう。


 暫く残骸を捜索するとゴーレムをみつけた。

部屋の底で動けなくなっていたやつだ。

この部屋に最初からいたやつらしく、落下の衝撃もほとんどなく、車両につぶされることもなかったようで、ほぼ無傷だ。これも収納する。

この部屋での目的を達したので、【レビテーション】で浮くと頭上の扉から廊下に出る。

そのまま廊下を進むとやっと備品倉庫に到着した。


「この中もぐちゃぐちゃなんだろうな」


 扉を開けて中を覗くとあら不思議。

倉庫の内部は理路整然と整理されたままだった。

全ての備品が棚にそのまま乗っている。

時間停止倉庫だから止まっていて動かないのか?

いや、それなら人が中に入ったとたんに時間が動き出して落下するはず。

つまり何等かの魔法により倒れようが逆さになろうが倉庫の中はぐちゃぐちゃにならないってことだろう。

その理由や仕組みを詮索するより、今は便利だなで済ませておこう。

俺は目的の燃料石を箱ごとインベントリに収めるとねぐらに戻ることにした。


「ご主人、ご主人。他のも持っていこう」


 プチの言う通りだ。

何かが足りなくてまたここまで来るより、丸っとこのまま備品をインベントリに収納しておけば良かったのだ。

俺はプチの賢さに感謝しモフモフしつつ、備品をインベントリに収納した。

さあ、これでゴーレムを二体確保出来たぞ。

プチのおかげで【レビテーション】に気付けたおかげで、意図せず目的を達成してしまった。


「ゴーレムを修理出来れば、貴重な労働力を手に入れられるな」


「わん!」


 さあ、帰って修理をしよう。

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