第7話 天から降りし者

 プチが右前足で示したのは新たに造成した牧場の一角だった。

ここは農地と違って木の根を除いて牧草を【促成栽培】しただけなので、なんらかの埋蔵物があっても不思議ではなかった。

農地は何か埋まっていたものがあっても一緒に耕してしまった可能性があるから、牧場に埋まっていたのは不幸中の幸いか。

畑のように柔らかい土地では、家畜が足を痛める可能性があるので耕さなかったのだ。

農地には【農地開墾】をかけているので、何か固いものが埋まっていても、ある程度の深さまではそのまま耕してしまい痕跡が残らなかっただろう。



 ここは【掘削】の土魔法で掘ればいいだろうか?

いや、埋蔵物を守るためにはそれなりの配慮が必要だろう。

俺は右腕を水平に上げると冗談半分で呪文を叫んだ。


「錬金魔法! 魔道具錬成、スコップ!」


 すると右手にスコップが錬成され出現した。

いや、ただやってみたかっただけなんだ。

まさか本当に出て来るなんて思わなかったんだ。

俺は肉体年齢15歳に引きずられて中二病っぽいことをしてしまったのを恥じた。

誰も見てなくてよかったよ。


 スコップはインベントリ内にあったヘモグロ……いや魔物の一部から精製された鉄と、牧場を造るときに伐採した木を加工して作られていた。

俺はスコップをおもむろに地面に刺すと土を掘りはじめた。


サク ドバッ! サク ドバッ!


 ひと掬いの量が半端じゃなかった。

どうやら重さも軽減されている。

【素材強化】と【重量軽減】が付与されているのか。

こころなしかスコップの刃先が魔力で輝いているように見える。

まさか【斬撃強化】の魔法が常時発動しているのか?


「これって出るところに出ればヤバイ魔道具だろ! 何てものを作ったんだ!」


 俺のスキルだから俺なんだけどね。

作業が捗るからいいんだけどね。

こんなもの誰の目にも触れない森の中で良かったよ。



 しばらく掘ると金属のボディが現れた。

間違えてサックリやるところだったよ。


「マジかよ。この【斬撃強化】スコップ、金属も切れるのか!」


 もしかしてこのスコップは現在この農園で最強の武器じゃないのか?

掘り出したのはロボット……いや、この世界ではゴーレムかな?

それはまるで高所から落下したような感じで潰れ壊れたゴーレムだった。


「ああ、見たことあるぞ。天空の……」


 それ以上は危険だった。

あれとは形が根本的に違うが、状況は一緒だと思われる。

俺は思わずこのまま埋め戻そうかと思ったのだが、労働力不足で困っていることを思い出した。

さすがプチだ。ご都合主義的に【ここ掘れわんわん】してくれる。

これはおそらく神様がプチに与えたユニークスキルだ。

俺はオマケで初級スキルをもらったが、プチは正当な転生でユニークスキルをもらったはずだ。

ここまで、神の祝福が半端ない能力なのだから間違いないだろう。

プチが褒めて褒めてをしているのでモフる。

いや、モフるのをやめない!


 周囲を広げて掘るとほぼ1体分の破損したゴーレムが埋まっていた。

ボディにレリーフ文字。


『ガイア帝国第482連隊783号』


 はい。ゴリゴリの戦闘マシーンでした。

ラピュ……なんでもない――みたいに暴れ始めたら最悪なので、やっぱりこのまま埋めておいた方が良いかと思う。

が、よくよく考えたら俺はここの地下に埋まっているガイア帝国の遺跡の管理者だった。

このゴーレムも遺跡絡みの備品だろう。

つまりこのゴーレムも俺の管理下にある可能性が高い。

動力が機能していないようなので、直ぐに危害を加えられることも無いだろう。

ならこのゴーレムを修理して労働力に変えてしまおう。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



 ゴーレムをインベントリに収納し遺跡に作ったねぐらに運び込む。

ここにはシステムコンソールがあるので修理に関するアドバイスがもらえると思ったからだ。

外でインベントリに土を収納し、コンソールへ向かう。

システムコンソールのある床に土を出し、土魔法で水平に埋めて足場を作る。

その上にゴーレム1体を寝かせられる大きさの作業台を盛り上げる。

傾いていると作業をし辛いからね。

土を持ってきたのは無から土を作るのはMPを滅茶苦茶食うからだ。

材料があれば少ないMPで事が足りると経験上知ったのだ。


 一度インベントリに収納したゴーレムを作業台に出す。

収納の極が仕事をして自動解体済みで助かる。

外殻が外されて中身が見えているのだが、見た感じコアと素材という魔法的な中身のゴーレムではないようだ。

このゴーレムの中身は機械式な骨格と人工筋肉を持っていて、なんらかの動力で動くようだった。

胸にある魔宝石に魔法陣が見える。おそらく動力や制御部が魔法式なのだろう。


 目に見える大きな破損は脚部にあった。

外殻がひしゃげ、中の骨格となる構造材が折れている。

骨格の金属を繋げるイメージで錬金術を使うと、そこそこの魔力を消費したが簡単に直せた。

魔力を消費したのは不足している金属を錬成で生み出したからだろう。

続けて外殻の金属も錬金術で直す。

問題は魔力機関と制御装置が魔法陣として刻み込まれた魔宝石だろう。

長年土に埋まっていたことで機能を停止している。


「システムコンソール、このゴーレムは修理可能か?」


 俺の問いかけにシステムコンソールからチューブが伸びて来た。

チューブの先端にはカメラが搭載されていてゴーレムを見ている。

そのカメラの下からレーザーのような緑色の光が出るとゴーレムをスキャンし始めた。

しばらくスキャンするとシステム音声が響いた。


『修理可能です』


「どうすればいい?」


『魔力機関の燃料石がエネルギー切れです。

それを交換すれば動くでしょう』


 修理できたとしても勝手に動かれても困るな。


「こいつは俺の命令をきくか?」


『無論です。

ゴーレム482783号は管理者クランドの管理下にあります』


「こいつの機能、いや性能は?」


『ラスコー級戦車と同等の性能を持ちます』


 そのラスコー級戦車というのがわからないんだけど……。

まあ戦車と同等の性能ということは、高性能な戦闘ゴーレムなんだろうな。

だが、その戦闘力を何らかのきっかけで発揮されても困る。


「戦闘機能にロックをかけられるか?』


『管理者クランド様のお望みのままに』


「そうか。なら修理しよう。燃料石は手に入るか?」


本艦・・の備品倉庫にあります』


 何百年前の備品だよ。劣化してたらどうするんだ。


「劣化していないのか?」


『時間停止倉庫のため問題ありません。

当該倉庫の時間停止機能に不具合は確認されていません』


「わかった取りに行こう。案内は可能か?」


『ゴーレムを呼び、案内させましょう』


「え?」


 その返答に俺は驚いて声をあげる。

動くゴーレムが管理下にあるなら、わざわざ修理する必要がないからだ。


「ちょっと待て。動いているゴーレムがいるのか?」


『……緊急事態です。傾斜によりゴーレムが動けません』


 そりゃそうだろう。俺でも難儀する傾斜だからな。

だが、そのゴーレムを回収すれば労働力に出来るぞ。


「傾斜は直らないんだろ?」


本艦・・の魔導機関の調整をお願いします。

魔導機関が正常作動すれば艦体・・を起こせます。

これは管理者にしか不可能な作業なのです』


 本館・・とか館体・・とか遺跡のくせに言い方が大げさだな。

でも魔導機関をどうにかすれば水平になるのか。

これはそのうち直してやるとするか。


「燃料石は案内図があれば俺が取りに行く。

その際に土魔法で階段を設置するが良いな?」


『構いません。

しかし、早急に魔導機関の調整をお願いします』


「了解」


 するとシステムコンソールのスリットから魔道具が出て来た。

案内図のプリントアウトではなく、まさかのモバイル端末が俺に宛てがわれた。

その画面に案内図が出る。

この世界は剣と魔法の中世レベルの文明世界だったはずだ。

ガイア帝国の遺産。やばい匂いしかしない。

あのゴーレムも、銃すら無いはずのこの世界でレーザーでも撃ち出しそうだ……。

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