第二章 護国堂 その6
翌日、護国堂に行ってみると、古内の他に照沼も来ていた。
日召先生には、古内からあらかじめ話をしてもらっていた。
「これから私を、お手元に置いて修行させていただきたいのですが。」
先生の前に座り、私が頭を下げると、先生は静かではるが、威厳に満ちた低い声で尋ねてきた。
「家の了解は得てあるのかね。」
「はい。許しをいただきました。」
「では、明日から来てみてはどうだ。」
そう言った刹那、先生は、私の眼前に白扇を突き出してきた。
「小沼君、これは何だっ。」
不意を突かれ、私は慌てて「白扇です。」と答えた。
すると先生は、禿げかけた自分の頭を白扇でポンポン叩き始めた。
「だめだ、だめだっ。これが白扇だということは、三つの子供でも分かっている。今さら、そんなことを君に尋ねているわけじゃない。私が白扇を突き出したのはなぜか、相手の腹を見なくちゃっ。」
なるほどと考えさせられた。先生はつづける。
「例えば、ここに君と私が二人で立っているとする。誰かが石を投げてきたのが、自分に当たった。このとき大切なことは、石を投げた人の意思がどこにあったのかを、まず見ることだ。君を狙ったのが、たまたま私に当たったのか、それとも私を狙ったものか。例え石が君に当たっても、目的が私にある場合、石を投げた人を私は許しておけまいと思う。しかし、自分に当たったとしても、目的が君にある場合、相手を許してあげねばならない。」
話を聞きながら、私を導いてくれるのは、この人をおいて他にはいない、先生のもとにいれば、必ず国家の役に立てると実感した。決意は更に強固なものに変わっていた。
暗闇の中で希望の光を得るとは、このようなことをいうのではないだろうか。傍らでは、古内と照沼が大きく頷いていた。
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