第2話 血のかわりに得るものの話
「趣味はなんですか?」と訊かれたら、そろそろ献血と答えてもいいのかもしれない。
密かにそう思っているマミさんです。訊かれる機会はもう、滅多にありませんが。
平日休みはシフト制勤務の強みですね。
通勤ラッシュ後でガラガラの電車に揺られ、行きつけの献血ルームへ、今年四回目の訪問。
正確には二回お断りされたので、六回目のチャレンジです。
……そう。お断りされることがあるのですよ。健康診断は毎年オールAの健康優良児(児?)ですら。
最初の関門は血圧。
上が90mmHgないといけないところ、86mmHgしかなかったりするのです。先天的な低血圧ゆえ。
遺伝なら仕方ないね、と許してもらえたり……しません。
やんわり、きっぱり、「今回はごめんなさい」と謝られます。
どう考えても、謝るのはこちらの方ですよね。「お手間を取らせましてすみません」と、しょんぼり帰るしかありません。
今日は104mmHgありました。問診担当のおじいちゃん先生が「いい数値だね~」と褒めてくれました。やったね。心の中で小さくガッツポーズ。
この血圧、上げるには水分摂取が大事なのだそうです。
気づくと一日コーヒー二杯と麦茶一杯で済ませてしまうくらい、トマトならさぞ甘いことでしょう、という身体をしているマミさんなのですが……。
献血に挑むようになってからは、意識して水をがぶがぶ飲むようになりました。
朝起きて、洗面を済ませたら500mlのプラコップで一気に給水。あとは昼食、夕食の前にもがぶがぶと。
それだけで1.5L。けれども人間は、一日2L以上を摂取しなければならないのだとか。
生きていくのって、なんとも大変。
次の関門は血色素量です。いわゆるヘモグロビン濃度。
全血400ml献血するには12.5g/dl以上、成分献血するには12.0g/dlが必要らしいですが(女性の場合)、それにすら届かないときがありました。
生活に支障はないけれど、他の人に分け与える余裕はないですよ? という状態です、とのこと。
「女性は低くなりがちですからね。夏場は特に」などと慰められながら、やはりしょんぼり帰ることになります。
対処法は水分と同じく、意識して鉄分を摂ること。
そこで二ヶ月前から、ヘム鉄サプリを飲み始めました。
これはすごいです。
前回12.2g/dlから12.9g/dlまで劇的に上がりました。ついでに体重も3kg減りました。
なんということでしょう。
二つの関門を見事に突破したならば、いざ献血。
素晴らしく寝心地の良いベッド、見やすい角度で聴きやすい音声のテレビ、飲み物を運んでくれたりカイロを握らせてくれたり、何かと気にかけてくれる優しい看護士?さんたち。
実は注射が死ぬほど苦手なマミさんですが、それを堪えてでもこの瞬間に得られる満足感のため、せっせと足を運ぶのです。
人の役に立っている。
必要とされている。
直接「ありがとう」と言ってもらえる。
そして献血ルームの中には、見渡す限り善人しかいません。
老若男女、誰もが他人のために集っているのですから。
他の人から見たならば、自分もその中のひとりとしてカウントされるのでしょう。
自己肯定感を高めるのに、果たしてこれほど適した場所があるでしょうか?
……そう。
ふわふわ生きているマミさんだって、いつでも褒められたら嬉しいし、褒めてもらいたいものなのですよ。
誰に?
それはきっと、自分自身に。
気が向くままに、ふわふわと 間宮渉 @mamiwa
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