02 男、新進のベンチャー

「さてみなさん。ミーティングをしましょう」


 社長。立ち上がる。仕切りも指定箇所もなく、すべてが自由な仕事場。ソファもあるし、子供を連れてきている社員もいる。下階には託児所、上階にはカフェ。


「この社は、新進気鋭です。ぼくが立ち上げたベンチャーですけど、ぼくはなにもしてません」


 笑い声。


「みなさんのおかげです。この前、厚労省から連絡がありました。なんちゃら平等制限を満たした、素晴らしい企業だということで。ぼくが表彰されるそうです」


 拍手。


「いやいや。ぼくはなにもしてません。みなさんが勝手に集まってきてくれたからこその社内体制です」


 会社の社員は、社長と自分以外、全員女性。子持ちもいる。


「というわけで、今日の午後ぼくは表彰でいません。ラップトップの中身は自由に見ていいですが、えっちな画像フォルダを隠してあるので、そこは見つけてもそっとしておいてください」


 笑い声。


「ちなみにフォルダの開け方はぼくと彼しか知りません。こんなものを見つけられたら、僕の表彰が剥奪されてしまう」


 やんややんやという囃し声。子持ちの女特有の、騒ぎかた。


「みなさんがいるかぎり会社は大丈夫でしょう。ぼくなんにもしてないですもの。今日の予定、何かありますか?」


 こちらに話が振られる。


「車載システムの評価試験と、電子キャッシュ会計の最終システムチェックですね」


「どっちも基準の数百倍の安全性と利便性を担保してあります。これもぼくの仕事じゃないですね」


 拍手。最終チェックは、社長が優れた手腕を発揮したことを社員全員が知っている。


「というわけでみなさん。本日もはりきって働きましょう」


 社員。みんなで和気あいあいの雰囲気。週休も自由に選択できる。なかには週6日休み、1日だけ来てすべての仕事を終わらせる人間もいた。


「じゃ、何事もないと思いますが、午後のことはよろしくお願いします。唯一のぼくのえっちフォルダを知っている人よ」


「その言い方だと、俺もえっちフォルダ持ってるみたいな感じに聞こえるじゃないですか」


 周りが笑う。


 いい職場、いい雰囲気だと、思う。


「こんな雰囲気なら、なんとかこの会社は生きていけそうだなあ」


「じゃ、俺は一旦外に」


「コンビニ?」


「ええ。いつも通りにごはんを」


「じゃあ、ぼくのおにぎりも買ってきてもらえるかな」


「了解」


 席を立つ。




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