生きる内偵、死ぬ内偵

春嵐

01 女、そこそこのシステム企業

 中企業と大企業の、ちょうど中間ぐらいの大きさ。まだ一代目の威光が強く、その親族が取締役を独占している。典型的な、家族経営の弊害。


「くそっ」


 上役プレゼンから戻ってきた同僚が、はきすてる。


「その口ぶりだと、だめだったのね」


 新しい何かに関するプレゼン。内容は、私も知らない。


「聞いてくれよ」


 ネクタイをゆるめて上着を机に置いて。椅子に座ってぐだっとする同僚。


「聞くわ。守秘義務に注意してね?」


 この同僚は、なかなか仕事ができる。なんちゃら平等制限の煽りで、中途で突然入ってきた私にも気さくに明るく話しかけてくれた。


「ええと」


 同僚。守秘義務の具合を頭のなかで整理しているらしい。


「ここまでならいいかな。電子レジ決済。それのプレゼンでさ」


「電子レジ決済」


 会計に電子キャッシュを導入するシステム。形にできれば、凄まじい利益になる。ただ、頭の凝り固まった上役はうんとは言わないだろう。


「システムじゃなくてさ、システムへの導入をうちでパッケージ化しようと思って」


「中抜きの中流フローね」


「うん。典型的なBだな」


 要するに、電子キャッシュ会計を導入しようとしている会社と、電子キャッシュ会計のノウハウを持つ会社の橋渡し。


「いいじゃん。それなら自前でシステム構築しないで済むし。上役の機嫌もいいんじゃない?」


「それがさ。そこが」


 同僚の顔が近くなる。


 これだけ近付いても、この同僚は私に発情しない。しっかりとした、家族想いのよい旦那さんであり、同時に社を支える中堅社員。


「上役の末端。分かるかな」


「社長の姪っ子だっけか?」


 ひそひそ声。周りに聞かれないように。


「そいつがさ、やばいのを持ち込んじゃったんだよ。自前のシステム構築でさ。まったく新しいタイプの電子キャッシュ会計システムを導入するんだって。車載情報とリンクさせて」


「ばかじゃん」


 車載情報や車のシステムほど機密性が高く独立機動性を有しているものはないのに。そんなものとリンクするなど、車会社はおろか国交省も総務省も首を縦に振らないだろう。


「それがさ、ええと、そうだな。K社にしよう。K社っていう、とんでもなくでかい会社がさ、そいつを後ろで操ってるらしいんだよ」


「もしかして」


「その通り。饅頭賄賂ですよ。もうどうしようもないよ。社内予算も通っちゃいそうだし」


「だめだめだね、この企業」


「ほんとだよ。このままじゃ死んじゃうよ会社が」


 困った表情の中堅社員。


 それを尻目に、立ち上がる。


「わたし、コンビニ行ってくるけど。欲しいものある?」


「上役を全員罷免できる何か」


「あはは」


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