第11話 おばあちゃん?

「ただいまーー」

「お邪魔します」

「おっ、おじゃまっします」

「康介さん、お帰りなさい。賢ちゃんとえっと、あやかちゃんは、やり直しね。ただいまでしょ」

「すっ、すみません。それじゃぁ、ただいま。ほら、彩花も」

「たっ、ただいま」

「はい、お帰りなさい」

 康介さんの奥さん、詩織さんは笑顔で出迎えてくれた。この人は笑顔以外は見たことがない。朗らかな人だ。怒らせない限り。


「じゃ、俺は荷物を運ぶから、先にリビングで寛いでて」

 康介さんが荷物を運んでくれるようなので、先にあがらせてもらう。


 玄関で靴を脱ぎ、リビングへ。その前に靴を揃えることは忘れない。彩花も真似をする。

「賢ちゃん、相変わらずね。こちらへどうぞ」

 詩織さんの後を追って、リビングへ。


「あやか、こちらは詩織さん、あやかのおばあちゃんだ」

「おばぁちゃん?」

「あやかちゃん。こんばんは。私は詩織よ。詩織さんって呼んでね。賢ちゃんも気をつけてね。次は無いわよ」

 詩織さん、顔は笑顔だが目が笑ってない。さっきの朗らかな何とかは俺の妄想だったようだ。威圧がスゲぇ。確かに40代後半には見えない美貌だ。30代と言っても通用するだろう。


「しっしおりさん!」

 彩花は詩織さんの圧力に屈したようだ。流石この家の女帝。誰も詩織さんには逆らえないのだ。

「はい。しおりさんですよーー。彩花ちゃん。彩花ちゃんは可愛いわねーー」

 といいながら、彩花をぎゅっと抱きしめる。

 彩花は急なことに困惑しているが、嫌そうにはしていない。

「詩織さん、彩花が困ってます」

「あら、そう。残念だわ。もう少し抱きしめたかったわ」

 詩織さんはしぶしぶ彩花の拘束を解除し、こちらに話しかける。

「賢ちゃんにこんな可愛い子がいるなんて、吃驚だわ」

「俺も、香織から何も聞いていなかったので驚きました。あいつ、大学生になる俺の負担になりたくなくて、何も言わずにいなくなって、一人で生んで育ててたみたいです。仕事の都合で面倒が見られなくなるから、しばらくの間、彩花のことを頼まれました」

 俺は、康介さんとの約束に従って、詩織さんに本当のことを言わなかった。俺の子供だとは言っていない。嘘は言っていない。本当のことを言っていないだけ。情報をあまりださないことで勝手に俺の子供だと認識してもらう。社会人になって身につけたずるいテクニックだ。あまり好きではない。しかし、今回は使わざるを得ない。


「ふーん。そういう事ね。大体分かったわ」

 詩織さんは半眼になってこちらを見ながらそう言った。どこまでも見透かされている様に感じる。


「康介さんと話をして、俺の子供として引き取り、育てることにしました。でも、俺には子育ての知識がありません。そして仕事の都合もあります。彩花との生活に慣れるまで、しばらくの間こちらでご厄介になってもよろしいでしょうか。よろしくお願いします」

「何言ってるの、今日からは賢ちゃんのお家でもあるんだから、好きなだけいてもいいのよ。にぎやかになってうれしいわ。日中一人だと暇なのよね」

「彩花、今日からパパとおじいちゃんとおばあ『詩織さん』えっと、詩織さんと彩花の4人でここで暮らそうね」

「ここに住むの?」

「そうだよ」

「いいの?」

「いい(の)よ」

 彩花のスカイブルーの瞳からポロポロと涙があふれる。

「パパ、あやかとずっといっしょにいてくれる?」

「お仕事があるから、ずっとは難しいけどそれ以外の時間はずっと一緒にいるよ」

 彩花が抱き着いてくる。俺は抱きしめて、抱っこする。

「パパといっしょ……。ずっとパパに会いたかったの……」

 彩花は俺に抱きついて頭をグリグリと押し付けてきた。


 この家で暮らすことを彩花は納得してくれたようだ。取りあえず康介さんと詩織さんには迷惑をかけるが、しばらくご厄介になろう。義理の父と母。そして彩花。誰も血のつながりはない、不思議な家族。でも血のつながりが全てじゃないさ。


 俺は香織からの手紙と康介さんからの愛情というものを知り、与えられた。今度は俺が彩花を愛してあげよう。香織の分も合わせて。


 香織の天使である彩花に人並みの幸せを与えれるようにあとは頑張るだけだ。

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