第9話 養子縁組
「賢太、それじゃあ、彩花ちゃんを引き取る為に必要なことを教えるぞ。そんなに大変なことじゃない。彩花ちゃんが賢太のことを父親だと認識しているのであれば、たった二つでいい。
一つ目は、賢太が彩花ちゃんの父親ではないということ絶対に隠せ。俺以外の誰にも言うな。詩織や遥にも言うな。これは絶対だ。6年前に香織ちゃんとお前は付き合ってはいなかった様だが、周りから見たらバカップルそのものだった。その事実があるから、彩花ちゃんの父親が賢太であることを疑う人は少ないはずだ。知っているのは香織ちゃんと賢太と俺の3人だけだ。であれば、事実は隠しておき、賢太が父親であると言うことを公然の事実として置き換える。これで賢太の子供として引き取れる可能性が高くなる」
「分かりました。今日から俺は彩花の父親です」
「そうだ、賢太はDTだが、彩花の父親だ」
「えっ、ちょっと。何言ってんですか。康介さん。って言うかドウ○イじゃねぇし」
「何、かっこつけてんだ。前に酔っ払って、めっちゃサクランボだと叫んでたじゃないか。魔法使いになるんだって」
「えっ、マジっすか? 俺そんなことを叫んでたんですか?」
「叫んでたな。店の中で。俺もめちゃくちゃ恥ずかしかったぞ。あの店のお姉ちゃんにも絡んでたぞ。だから、お前は今日から酒禁止な。酔って真実をバラしかねんからな。禁止だぞ」
「分かりました。もう飲みません」
マジか。とんだ黒歴史残しちまったようだ。
本気で酒やめよう。
「で、2つ目だが、これは凄く簡単なことだ。よく聞けよ」
ゴクリ。何をすればいいんだ。
「賢太、俺の息子になれ」
えっ。何だって。息子になれだと。
「それはどういうことですか?」
「簡単なことだ、お前は独り身で親類もいない。そんな男一人で子供を育てられるとは、世間では考えない。だから、里親にはなれない。
そこでだ。賢太と俺が養子縁組しお前が息子になれば、詩織や遙がいる。家族がいて、子育での経験者が身内にいれば、大丈夫だと判断されやすい。よって、賢太、俺の息子になれ」
康介さんは9年前から事あるごとに度々俺にそう言ってきていた。俺はその言葉嬉しく思いながらも、固辞し続けていた。成人してからはその言葉も聞かなくなっていたが、久々に聞いた。
「いや、そんなご迷惑おかけする訳「賢太」には」
被せぎみに康介さんが遮る。
「お前は何でもするとさっき言っただろ。彩花ちゃんの為に俺の息子になれ。迷惑なんかじゃない。俺は9年前から賢太のことを息子だと思っている。詩織や遙もそうだ。もう既に賢太は俺の家族なんだ。もっと俺を頼れ」
11年前に両親が事故死してから、俺には家族がいないと思っていた。一人なんだと。でも違った。俺が気づいていないだけで、俺のことをこんなに想ってくれている人がいた。俺は一人じゃなかった。涙がまた溢れてきた。止まらない。
「ごうすけざん。オレ。俺は……」
きちんと喋れない。
「違うだろ、賢太。今日から俺はお前の父さんだろ」
康介さんがサムズアップする。
俺の涙腺は決壊した。
「いやー、こんな可愛い子が孫になるのかー。やっぱり女の子は可愛いなぁー。遙もこんなだったなー。可愛いなぁー」
康介さん、あんた女の子の孫が欲しかっただけじゃね。
俺の涙はあっさり止まった。
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