第8話 子供を育てるということ②

 俺は康介さんの言葉に何も言い返せなかった。正直に言えば、何とかなると適当に考えていた。

 ただ単純に香織が向かえに来るまで、彩花に普通の生活をして、ただ一緒にいてあげよう。そんな思いだけで引き取ろうと考えていた。そこに責任や義務などの考えは無かった。確かにただの世間知らずガキの戯言だと思われても仕方がない。

 俺は拳を握りしめた。


 そんなことを考えていると、寝室から彩花の鳴き声が聞こえてきた。


「マぁーまー。どぉーこぉー。ぅえーん。」


 その声を聞いた瞬間、血が沸騰したように全身が熱くなり、何も考えず、ただ駆け出していた。

 俺は全力で寝室へ駆けた。ドアをぶち破る勢いで開け叫ぶ。

「あやか。パパがいるから大丈夫だ。ママはお仕事でいないけど、パパがずっと一緒だから。大丈夫だよ」

「えーん。パぁパ。ママに会いたいよー。うぇーん」

 俺は彩花を抱きしめる。彩花も力いっぱい抱きついて、嗚咽する。

「うっ。うぇ。ばぁぱ。ばぁぱ」

 辛いよな。昨日までいた大好きなママがいないのだから。俺は彩花の頭を撫でる。

「彩花。パパが一緒にいるから。ママが帰ってくるまで、ずっとずっと一緒にいるから。大丈夫だよ。彩花は一人じゃないよ。一人にはさせないから」

 頭を撫でる。30分位たっただろうか。彩花の全身の力が抜けて全身がズシリと重くなった。どうやら泣きつかれて眠ったようだ。


 この30分で様々なことを考えていた。俺の今後、彩花の今後。子供を育てる大変さ。責任の重さ。

 俺は廊下から様子を伺っている康介さんに告げた。

「康介さん。やはり俺は彩花を一人にはできません。俺や香織の様に孤独にはしたくありませんし、できません。

 俺は彩花にとってパパなんです。守ってあげないと。愛してあげないといけません。

 お願いします。何でもします。彩花を俺が引き取るための方法を教えてください。お願いします」


 俺は涙と鼻水でグズグズになった顔で康介さんへ懇願した。

「賢太。お前の覚悟はわかった。取り敢えずの話の続きをしよう。まず、顔を洗ってこい。彩花ちゃんが泣き出したらいけないから、ここで話をしよう」

「はい。ちょっと失礼します。」


 俺は顔を洗い、鏡を見ると目が少し赤い。明日が休日でよかった。今日はたくさん泣いてしまった。冷静になると恥ずかしくなってくる。

 俺はコーヒーを入れ直し、彩花が眠る寝室へ持っていくと、康介さんは彩花の頭を撫でながら、涙や鼻水を拭いてくれていた。

「彩花ちゃんは、香織ちゃんによく似てるな。賢太のことをパパと言ってよく懐いてる」

「最初からこんな感じでパパって呼んでくれてました。香織がよく写真を見せてたみたいですし」

「その様だな。じゃあ話を始めようか。

さっきも言ったが、賢太の覚悟はわかった。賢太が何を犠牲にしても彩花ちゃんを守る意志があるのであれば、協力しよう」

「はい。約束します。俺は何があろうと彩花を守ります」

 今から俺は、彩花の父親だ。この子は俺が守ってみせる。

「わかった。では、彩花ちゃんを賢太の子供として養子縁組する為の手段を教えてやる」

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