第7話 子供を育てるということ
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。康介さんが来た。俺は玄関ドアの扉を開ける。
「康介さん、来てくれてありがとうございます」
「よう、賢太。久しぶりだな。ほんと、たまには連絡くらいしろよ。詩織と
遙姉は康介さんの娘さんで、俺も小さい頃からよく遊んでもらった。現在27歳で2児の母親となっている。
「すみません。この所、仕事が忙しくて」
「で、相談って何だ。結構重い話ってことだが。このスーツケースが関係してるのか?子供服が沢山入ってるみたいだが」
玄関に放置していたスーツケースで大筋の事を理解される。
「そうなんです。詳しい話は奥で話しますんで、上がってください」
「康介さん、コーヒーはいつものブレンドでいいですか?紅茶もアールグレイならありますけど」
「コーヒーでいいよ。濃いめな」
「はい。いつもどおりということですね。
コーヒーを入れてる間にこれに目を通しておいてください」
「これは?」
「香織からの手紙です」
康介さんが驚いた顔をする。
「香織って、南香織さんかい。6年前の。会ったのか?」
康介さんは俺の後見人だったから、当然、香織のことも知っている。
「会ってはいません。詳しくは読んで頂けばわかると思います」
「わかった。読んでみるよ」
俺は康介さんと自分用にコーヒーを入れるため、キッチンへ。
俺はコーヒーにも結構こだわりがある。3種類の豆をオリジナルブレンドしたこだわりの一品だ。本当は焙煎も家でしたいが、時間がかかりすぎるから、そこはプロに頼んでいる。そんな一品でコーヒーを入れ、リビングに戻ると康介さんも香織からの手紙を読み終え、渋い顔を見せていた。
「賢太、香織ちゃんの子供の彩花ちゃんはどこだい?」
「1時間くらい前にご飯中に寝てしまったので、寝室で寝かしています」
「そうか。それじゃあ、彩花ちゃんとの面会は後にしよう。で、賢太はどう考えているんだ?」
「俺は6年前に香織に求婚しました。家族になってくれと。でも、香織は消えてしまいました。その理由がやっとわかりました。俺は香織のSOSに気が付いてやれなかった。あの時の気が付いていれば、彩花は今一緒に住んでいたかもしれない。それに今回は香織からの明確なSOSだ。俺は今度こそ助けてやりたいと思ってます」
「そうか。賢太の考えはわかった。ではここからは弁護士として話をするぞ。
一つ、彩花ちゃんは現在、香織さんの戸籍に入っている。この状態で彩花ちゃんをお前が預かることはできない。正直に全てを話した場合、彩花ちゃん捨て子と認定され、施設に入れられるだろう。そして、そのまま施設で18歳まで過ごすか、里親にもらわれて行くだろう。
二つ、現在の法律では捨て子見つけたり、拾った場合、24時間以内に警察へ届けなければならない。届けなかった場合、未成年者略取罪に問われてしまう。
三つ、結婚していなくて家庭のない、25歳の賢太では、里親にはなれない。許可が市から下りにくい。
四つ、方法が別に無いわけではない。
こんな所だ。次に高見康介個人としての意見を言うぞ。
確かに香織さんのSOSに対し、行動したいという賢太の考えは素晴らしいと思うし、そんな考えができる賢太を誇らしく思う。でも、子供を育てるというのはそんなに易しいことじゃない。お前は仕事をしているし、帰りも遅くなることが多い。その間、彩花ちゃんはどうする。保育園に預けることも、まぁ可能だろう。
しかし、それで彩花ちゃんは大丈夫なのか。愛情持って育てられるのか。お前はまだ25歳だ。やりたい事もあるだろう。遊びたい事もあると思う。でも彩花ちゃんを引き取るということは、それを全て我慢しなければならないと思う。
片親で育てるというのは簡単なことじゃないんだ。できるのか。ただの使命感だけで動いていないか。子供を引き取るということは、その子の一生を預かる覚悟が必要なんだぞ。その事をよく考えたのか。どうだ。賢太」
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