第5話 香織の手紙
彩花ちゃんは、オムライスをニコニコ顔で食べながら、「美味しい。凄い」と連発している。
「いっぱい食べてね」と伝えて、俺はビールの缶を開けて取り敢えずの一杯。うまい。至極の一杯。生き返る。
さてと、一息ついたので、懸案の香織からの手紙だ。これを読まないと始まらない。
意を決して封を開ける。手で破くなんて野蛮なことはしない。大事な手紙だ。俺は几帳面なんだ。きちんとペーパーカッターを使う。
「賢ちゃんへ
貴方の子供です。後を頼みます。
というのは冗談です。すみません。
突然、このような事をしてすみません。優しい賢ちゃんなら、女の子を夜遅くに放り出すことはしないと思い。こんな方法を取らせて貰いました。
この手紙を読んでくれているということは、私の思ったとおり、変わらぬ賢ちゃんでいてくれてホッとしています。
それでは、彩花のことについて、説明させてください。あの子は今年で5歳になる私の子供です。
6年前賢ちゃんの前から急にいなくなってゴメンなさい。賢ちゃんからの告白、とても嬉しかったです。私も賢ちゃんのことは大好きでした。できることならば、ずっと賢ちゃんと一緒にいたかった。でも、無理でした。
6年前の12月のことです。今でも思い出したくありませんが、私はバイト帰りに強姦にあい、4人の男たちに輪姦されました。私は汚れてしまいました。すぐに警察へ届けるなり、誰かに相談していれば結果は違ったのかもしれません。でも、怖くてできませんでした。私はそのこと自体を必死で忘れようとしていました。
そして彩花を身籠りました。
堕ろそうと思い、病院にいきましたが、結局できませんでした。身寄りのない私のたった一人の家族になる子供を殺すことは出来ませんでした。
賢ちゃんに話そうかと何度も葛藤しました。いずれバレてしまうのだから。でも賢ちゃんが離れてしまうのが怖くて言えませんでした。
そして、賢ちゃんがバレンタインデーに告白してくれました。
私はあの日、賢ちゃんに別れ話をするつもりでした。結局は先を越され言えませんでした。
だから、賢ちゃんの告白を受けて、私は賢ちゃんの前から消えることを決心しました。賢ちゃんなら、子供ごと私を受け入れてしまうんだろうなと感じてしまいました。
近くにいたら賢ちゃんを頼ってしまう。迷惑をかけてしまう。そう考えると離れるしかありませんでした。そして、夜逃げ同然に引っ越し、彩花を生みました。
彩花を産んでからの生活は大変でしたが、天使の様な彩花の笑顔をみると、その苦労も苦痛ではありませんでした。彩花は私の唯一の家族であり天使でした。
彩花が大きくなりパパの事を聞いてきました。困った私は唯一、私が愛した賢ちゃんの事をパパだと言ってしまいました。賢ちゃんがパパだという家族ごっこに二人で浸っておりました。彩花に賢ちゃんの話をしているそのときは本当に幸せだったのです。
でも、もう限界なんです。私では彩花に普通の幸せを与えてあげられない。幼稚園にも行かせてあげられない。一緒にいてあげられない。ご飯すら満足に食べさせてあげられない。もう無理です。
私には賢ちゃん他に頼る人を思いつきませんでした。彩花は賢ちゃんの事をパパだと本当に思っています。彩花にとっての家族は私と賢ちゃんだけです。
厚かましいお願いとは思います。あの時の私の代わりに彩花を家族にしてあげてくれませんか。私の天使に人並みの幸せを与えていただけませんでしょうか。
どうかよろしくお願いします。
香織」
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