第4話 オムライス

 彩花ちゃんにオムライスを作る約束をしたので、キッチンへ。今日はチャーハンと餃子にする予定だったが、メニュー変更だ。


 唐突だが俺は料理が得意だ。中学のときに両親が他界した。交通事故だった。交差点で歩行中に乗用車が突っ込んできたらしい。乗用車の運転手もその事故で死亡したため、俺は怒りの矛先を失ってしまった。

 親族は既に無く天涯孤独。唯我独尊ではない。残ったのは億を超える賠償金とこのマンションだけだった。未成年だった俺は施設に入り、後見人が付くことになった。

 後見人には父の友人の高見たかみ康介こうすけさんがなってくれた。

康介さんは俺に一緒に住まないかと当時何度も誘ってくれた。養子にならないかとも。でも俺は固辞し続けた。世界に絶望していたこともあるが彼にも奥さんと高校生の娘さんがおり、温かい家庭を目の前で見るのが辛すぎたのだ。

 当然、高校生が一人暮らししているのだから、週に一度は康介さんが家を訪ねてきていた。社会人になった今では、後見人ではなくなったが、たまに飲みに行くこともある。いつもご馳走してくれるし、相談にものってくれる頼りになる人だ。


 まぁそんなわけで、高校生から一人暮らしをするつもりだったので、施設では料理を積極的に教わった。康介さんの奥さんの詩織しおりさんにも教えてもらった。詩織さんは料理教室を開くくらい料理が上手だ。そんな人に教わり始めてから既に9年、料理は俺の特技になっている。休日の趣味といってもよい。

 彩花ちゃんに特製のオムライスを披露して魅せよう。


 まず、ご飯を炊飯器から出し、冷ましておく。玉ねぎと人参をみじん切りし、鶏肉を細切れにして下味をつける。卵を割ってかき混ぜ、味醂で味付けする。

 次にデミグラスソース作りだ。本当はコンソメスープから作りたいけど時短のため顆粒の素で代用する。赤ワインとケチャップ、コンソメ顆粒を混ぜ、しょうゆと中濃ソースで味を整える。彩花ちゃんが食べるから砂糖を少し加え煮詰める。

 玉ねぎをを飴色になるまで炒め、人参は電子レンジで下処理、鶏肉を炒めて、火が通ったら玉ねぎと人参を加え、塩で味付けする。最後にご飯を加え、バターで炒める。バターライスは皿に取り分けた。

 フライパンを熱々に温め、一気に卵を投入、急いで菜箸でかき混ぜ、すぐにオムレツに。時間との戦いだ。これをバターライスに載せて、包丁でカットする。

 トロトロのオムライス。最後にデミグラスソースをかける。これで完成だ。


 ここまで15分。我ながらいい出来だ。写真を撮らねば。スマホでオンスタ用の写真を撮る。

 オンスタは最近流行りの写真をアップし、他者へ公開しドヤ顔するアプリだ。俺も仕事の関係で最近始めたところだ。毎日の料理をアップしている。たまに動画も。反響も増えてきている。


 それはどうでもいい。早く食べてもらおうと思ったら、キラキラした顔でキッチンを覗く彩花ちゃん。

「パパ、凄い。魔法使いみたい。ジュウジュウして、くるっとしてた。凄く美味しそう」

 めっちゃ興奮してる。ぴょんぴょん飛び跳ねてる。

「美味しそうじゃなくて、めっちゃ美味しいから。さぁ食べようか」


 ダイニングテーブルにオムライスを運び、席につくが、椅子が少し低いな。これじゃ食べにくいだろう。

「ちょっと待ってね」

 寝室にいき、クッションを持ってくる。

「ちょっと椅子から降りてね」

といい、脇に手をいれ、抱っこして降ろす。クッションを椅子におき、また抱っこして、椅子に座らせる。

「これでちょうどいいね。さぁ食べてみて」

「うん。いただきます」

 スプーンを手に持ち、大きく一口パクリと食べた。ブルブル震えだした。

 えっ、やばい?何か間違えたか? 子供が食べちゃいけないものあったか?

「おっいっしーーーー」

 彩花ちゃんは両手を上に突き上げ、エイドリアンポーズ。スプーンからご飯粒が飛び散っている。あー。買ったばかりのラグがー。

「パパ。美味しいよ。こんな美味しいオムライス初めて。パパ凄いねェ」

 といいながらパクパクと食べ始めた。

 よかった。お口に合ったようだ。小さい子にオムライスは鉄板だな。

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