第2話 彩花
俺は買って帰ってきた食材とビールを冷蔵庫へいれ、オレンジジュースをコップへ注ぎ、ソファの前のダイニングテーブルへ置いた。
「オレンジジュースしかないんだけど、よかったらどうぞ」
彼女は動かない。やっぱり緊張してるのかな。
「俺の名前は
名前を聞けば母親がわかるだろう。知り合いみたいだし。まあ予想はつくが…。
「
か細い声で答えた。
やはりな。予想はしていたとおりの名前だった。こんなに綺麗な青い髪の知り合いは香織しかいないからな。
南
3ヶ月ほどたった頃、あいつも俺と同じで両親が他界し、一人暮らしをしていることを知った。
俺は高校にいっていたが、あいつはフリーターだった。しかし境遇が似ていることから、お互い寂しさを埋め合うように一緒に遊ぶ事が多くなった。
一緒にカラオケに行ったり、ゲーセンに行ったりもした。多分好きだったし、あいつも俺のことが好きなんだと何となく思っていた。でも俺は告白できなかった。好きって気持ちがよく分からないのだ。それは今でもそうだが……。
それから2年の月日がたち、高校卒業と大学入学が近づいてきた2月のバレンタインデーに俺は告白した。
あいつは涙を流して、嬉しいと言ってくれたが、返事は保留された。
そして、俺の前からいなくなった。
携帯が繋がらないので、おかしいと思い家に行ってみると引っ越ししていた。近所の人に聞いたが誰も知らなかった。
何が起こったのか。事件に巻き込まれたのか。あいつは無事なのか。警察に相談したが、親族ではないので相手にしてもらえなかった。それから今日まで何の連絡も無かった。
それからの俺は半身を失ったように、何をする気力もなくなってしまった。中学のときに両親が事故で死んだときと同じだ。
やっとあいつのおかげで色が戻ってきた世界が再び灰色の世界になった。何を食べても美味しくないし、遊んでいても楽しくない。ただ無気力に生きているだけだった。どうして。どうしてと毎日考えていた。
それでも3年もたつと、それなりに傷も癒えて日常生活を普通に送っていた。勉強して、バイトして、就職活動して、たまに遊んで。徐々にあいつのことを思い出す日は減っていった。しかし、誰かを好きになることはなかった。愛するという気持ちが分からない。俺はたぶんどこかが壊れてしまったのだと思う。
大学の友人はそんな俺を心配して合コンを開いてくれたり、遊びに誘ってくれたりした。稀に告白されることもあったが、こんな俺とお付き合いする相手が不憫で全て断った。とてもそんな気にはなれなかった。
大学を卒業し地元の中堅映像制作会社に就職し、3年目。それなりに仕事にこ慣れてきた所。
そしていま、俺の前にあいつの子供がいる。髪の色以外にも口元や鼻もあいつの面影がある。
「えっと、あやかちゃん。少しお話しいいかい?」
「いいよ」
不安そうに呟いた。
「お母さん、お仕事だって言ったけど、いつまでか聞いてる?」
首を横にふる。
「何処に行ったか知ってる?」
首を横にふる。少し泣きそうになっている。
「俺のことをパパって言ってたんだよね」
首を縦にふる。
あいつは何を考えてるんだ。突然俺の前から消えて、子供を勝手に置いて行くなんて、しかも俺のことを父親と説明するなんて。
俺が密かに怒っていると、あやかちゃんが何か言いたそうにモジモジとしていた。
「どうしたの?何かあった?」
「えっと、えっと……っこ」
顔を赤くしている。
「えっ、何?」
よく聞こえなかった。
「……っこ。おしっこ漏れそう。」
恥ずかしそうにしている。
「ごっ、ごめんね。少し我慢して!トイレこっち」
急いでトイレに案内するがついてこない。
「どうしたの、トイレこっちだよ」
彩花ちゃんの方を見ると泣いている。
間に合わなかったらしい。
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