一、「川に立つ」
岸辺に立って、私は川を眺めている。
眺めながら、私は何を見ているのかと不思議な思いに駆られる。
川は確固たる実体として目の前にありながら、どこからどこまでが川なのか、どこをもって川なのか、確かなものがない。
川は、流れてゆく水、それによって作られた地形、その地形を作るまでの時間経過――その総体だ。ならば川という「確固たる実体」は――実はない。
そもそも川は流れ続け、一時たりとも一定の状態にとどまらない。川であり続けるには変わり続けなければいけない。
その変化そのものが川なのだ。
今もまた、青く濁った水塊から、汚臭をまとう泥水に、かと思えば虹色に照り輝く粘液に、ツギハギの絵巻を追うようにちぐはぐに入れ替わっていく。
変わっていくのは流ればかりではない。
向こう岸の芦原は、いつしかコンクリートの白い壁となり、それがひび割れ砕けたと思えば、さかんに赤く伸びあがる炎の森になる。今は錆びた鉄の杭が並んでいる。
岸を行き来する人の姿も変わっていく。蜃気楼のように揺らいではその形を歪めていく。今こちら向いて立っているシルエットは、「人影」と呼んでいいモノなのか――。
川自体も形を変え、流れるところを変え、やがて消える。
先程まで波打つようにうねっていた、悲鳴を上げる肉の流動体も流れ去り、渇いた黒い川底が、きらきらひかる結晶物を晒している。さらにそれも風化して。
あった場所の痕跡さえもなくなって。何もかも暗黒の中空に散って。
時に流され遠に消えた私の身体と意識は、遥かな過去からそれを見届ける。
川の中で。
<掌編/少変/小片>集 殻部 @karabe_exuvias
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