一、「台風の」

 音のない青空に、球体が浮いていた。月にしては大き過ぎるし、もっとずっと近いところにあるように見える。バルーンにしてもやはり異様な大きさだし、繋ぐ綱が見あたらない。いろいろな可能性を思いついては潰していった末に、私は怯む。――あんなものは見たことがない。

「台風の目だね」隣のあの人がこともなく言った。私は僅かにほっとする。そうか、あれが台風の目なのか。だとすると……。

「じゃあ、あれが台風の口かな」私は、巨眼の向こうの裂け目を指差した。

 しばらく微動だにせずそれを見つめたあと「なにあれ……」あの人は震える声で呻た。

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