第3話 再来の異世界

ネクストライフにスタート画面はなく、ログインすると通常であれば守護しているキャラクターの周囲に出現する。

と言うのも、守護神となるプレイヤーはキャラクターの周囲3mから離れることが出来ないからだ。


例外があるとすればそれはイベントシーンや守護対象が守護を希望していない行動を行っている際、または場合だけである。


「ここは…森の中?」


そして今回、3年ぶりのログインとなる僕も当然、キャラクターの周囲に出現したりはしない。僕がログインしていなかった3年の間に追加イベントが実装された為だろう。その辺は大雑把にではあるがネクストライフの攻略wikiで予習してきている。

ただ…追加イベントは実装するのにクソゲー要素を一切改善しないのはなんでなんだろうな。運営のドス黒い執念を感じる。


ともあれ、これから始まる新イベントである。

僕が降り立った場所はぐるっと見回してみても、ごくごく平凡な森の中と言った印象を受ける。


「てっきり、それ専用のフィールドで進行するタイプのイベントだと思ったんだけどな。」


当てが外れたとはまさにこのこと。

なにせこれから始まるであろうイベント、それこそが神聖にしてネクストライフ唯一の良心とまで呼ばれている…『専属天使』の召喚だったからだ。




ネクストライフはキャラクターを見守るシミュレーションゲームであり、できることと言えば守護対象の思考を受信することと、自身の意見を発想という形で送信すること。

つまり基本的には目の前で繰り広げられる人物劇を見て楽しむことこそがネクストライフの楽しみ方なのだが……これだけではプレイ歴が長くなればなるほど、どうしても不満が浮かんでくる。


それはそうだろう。

目の前にとてもよくできた異世界が存在していると言うのに、自身は常に傍観ぼっちしかできないのだ。ネクストライフはゲームと呼ぶには遊び方の自由度が足りていなかった。

それを証明するように、『せめてキャラクターと会話出来るようにしてほしい』との意見がプレイヤー間では跡を絶たなかった。



ただ、この問題には運営も最初から気づいていたのかもしれない。だからこそ、『追加イベントで会話専用のAIを実装するから、その子と話しながら仲良くプレイしてね』と言う、プレイヤーの右斜め上を行く手法で運営は解決策を示してみせたのだ。

そうだけど…絶妙にそうじゃない感が溢れていた。プレイヤーが会話をしたいのは、ネクストライフの世界に対して傍観者じゃなくなりたいからなんだよ!

プレイヤーの意見を汲み取りつつも全てを実現しないあたり、さすがはネクストライフ運営である。


ストーリー的には『何度目かの守護神を務めあげた事でプレイヤーの神格が上がり、専属の天使を持てるようになった』と言うもので、専属天使はまるでAIとは思えないほどスムーズかつ自由にプレイヤーと会話ができるほか、自身がログインしていないときでも守護対象の行動を見守ってもらう事が可能な、要するにお助けAIだった。



……と、これで終われば圧倒的良イベントなのだが、相手は持ち上げたものを倍の速度で叩き落とすと定評のあるネクストライフ運営。

ネタばらしをするなら、専属天使は『守護対象の行動を見る』ことは出来てもプレイヤーのように『守護対象に発想を送信する』ことは出来ないのでろくな助けにはならないし、『天使を完全に具現化させるには神格が足りない』との理由をつけて、彼ら彼女らの容姿は……光の玉・・・なのである。


膨大と呼べるまでに数多のキャラクターが登場するゲームだと言うのに、どうして最も身近な存在が光の玉なのだろう。プレイヤーの話相手が光の玉のみって、なんか違くない?

プレイヤーの要望は最低限しか叶えられていなかった。


…だと言うの天使実装に諸手を挙げて歓喜したあたり、プレイヤーもネクストライフに染まりきっているんだろうなあ。



「イベントの開始は…あそこか。」


生い茂る木々の合間に見える半透明なイベントフラグ。それを視界に捉えることでネクストライフのイベントは進行される。ネクストライフのイベントは視界のフォーカス具合によって自動で進んでいくのだ。


尚、『瞬き』程度であれば問題ないがイベント中に『目を瞑り続ける』、『視界を逸らす』などのあからさまにイベントを見ていない動作を行うとそこでイベントシーンが一時停止されてしまうので、イベントをスキップしたがる人にネクストライフは向いていない。

この手のイベントをスキップしてなにをシミュレートするんだ、と言うことだろう。それはそれとしてもネクストライフに向いている人の方が少ないのだが。


もし、なんらかのアクシデントによりイベントが途中終了した際には始めから見直すことになる程の徹底ぶりである。

そして、それが誰もが一度は通る道だったりする。




そんなことを考えながらイベントの成り行きを見守っていると、案の定木々の合間から『ガサゴソ』となにかが近づいてくる音が聞こえてきた。

そうして野生(?)の天使にエンカウントするのかと思っていた…のだが。



「…ん?」



『ふんふんふーん♪』


草木をかき分けて現れた存在、それは光の玉ではなく…どこにでもいる平凡な容姿の少女であった。

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