第2話 リアルなクソゲーはリアルで間に合っています
世に実績全開放不可能とまで言われた伝説的VRクソゲーがある。
タイトルを『ネクストライフ』と言い、プレイヤーは地球とは異なる世界で暮らしているキャラクターの守護神となり、時には神託(と言う名の発想)を与え、成長を見守っていく…いわゆるよくあるシミュレーションゲームである。
それがなぜ実績全開放不可能なのか?
言っておくと、ゲーム的にはなにも問題ない。
発売から数年経った今でさえ他の追随を許さぬほどに圧倒的リアリティを誇るグラフィックに、まるで生きているとしか思えないキャラクター達、そして自発・他発的に発生する柔軟な
これらのゲームスペックだけを見るなら、むしろ現行のどのVRゲームをも遥かに凌駕していると言っていいだろう。
それなのに、なぜクソゲーと呼ばれているのか。
それはある一点に集約されている。
このゲーム、時間経過がリアルタイムなのである。
もう一度言おう。
このゲーム、時間経過がリアルタイムなのである。
なんとこのゲーム。ゲームを起動していても、していなくてもゲーム内では等倍で時間が進み、キャラクターの人生も進んでいく。
リアルに作り込まれているのは良いのだが、ここまでリアルにしちゃいけなかった典型なのである。
人の生涯をシミュレーションするのに時間経過がリアルタイムなのは馬鹿だろうとしか言いようがない。倍速、スキップ機能は今ではどんなゲームにも備えられているものなのに!
要するに、このゲームのクリアに必要なのはお金でもなければ
この時点で既にクソゲーオブクソゲーであるのだが、それでもまだ伝説的と呼ばれるには程遠い。ではこのゲームがクソゲーの際たるところはなんなのか。
それは………『命の軽さ』ある。
考えてほしい。
沢山の時間をかけて見守ってきたキャラクターが一瞬目を離した隙に死んでしまっていたら、どうだろう?
尚、このゲームは
これこそが発売直前までは神ゲーと賞賛され、発売後に世界を闇(病み)で包み込んだ伝説的クソゲーの正体である。
…そんなとんでもゲームではあるのだが、このゲームが僕は好きだった。
先に述べた欠点さえ飲み込めてしまえば、作り込まれた世界観とグラフィックはいくら見ていても見飽きることがない程であったし、なによりそれぞれのキャラクターに生きた感情があり、ストーリーがある。
僕のような感情の死に絶えた社会不適合者から見れば、全てのキャラクターが輝いて見えていた。
だから僕は仕事を辞めて時間が出来たのをきっかけに、このゲームを全クリ…実績全開放を目指してみよう、と思ったのだ。
しかし、実績全開放を実際に行うとなると先に述べていたように時間が問題になってくる。いくら仕事を辞めたからと言って、それだけで全クリできるほどこのゲームは優しくないのだ。
「まあでも、今の僕にはこれがあるからね。」
そこで僕はネクストライフを起動する前にVR空間上にとある『パッケージ』をインストールさせることにした。
ネクストライフにはやたら強固なプロテクトが組み込まれているらしく、チートやデータ改造、果てにはマクロと言ったあらゆる裏技が通用しないのでこのパッケージも適用できるかには心配があったが…どうやらパッケージ上にネクストライフのゲームを設置することは可能なようだ。
いつもの事だが、このゲームの制作会社は力の入れどころを絶対に間違っている。警備会社にでもなるつもりか???
尚、今回僕がVR空間上にインストールしたパッケージは名を『時間操作』パッケージと言う。
このパッケージは自身のシステム空間に仮想の部屋を作り出し、その部屋内の時間の流れる速さを自由に操作することが出来るというものだ。つまり、現実の10分をその部屋の中では100分に出来たりする。
この空間を経由してネクストライフを起動させればゲーム内の時間の流れが仮想空間を基準としたものになるのでは、というのが僕の狙いだ。
このパッケージ、とても便利に思えるかもしれないが、使用すると脳にかなりの負荷がかかるとかで発売からわずか1週間で販売停止しており、現在では末端価格で余裕で家が買える程度に跳ね上がっている。
僕は発売直前の誰もがその性能を信じていない時に、時間が足りず仕事が終わらない状況が打破できるならと藁にもすがる思いで予約をして手に入れていた。幸運である。
だが、そもそもこれがなければ終わらない仕事量って考えるまでもなく
購入一つにつき展開できるシステム空間は1つだけである為、会社に設置している間は家で使うことができなかったのだが、それももう昨日までのこと。時間操作パッケージで脳に、ネクストライフで精神に負荷をかける
ちなみに、時間操作パッケージよりネクストライフの方が心的被害者は多いのだが、ネクストライフは現在も普通に販売されている。闇が深いにも程がある。
尚、トイレや食事のためにゲームから離れる際にはパッケージ内の時間の流れを遅くするのを忘れてはいけない。
その状態のまま席を外してしまえば、それだけで『いつの間にか守護していたキャラクターの人生終了していた』まであるのだ。
だが。
だがである。
これほどの時間操作を行ってもまだ実績全開放には程遠い。
なぜなら、このゲームで人生を共にできるキャラクターの数は1万を超えているからだ。
攻略wiki上には守護したキャラクターの情報が随時更新されているが、そこに載っているキャラクターと出会すのは稀であると言えばそれがどれ程のボリュームかわかるだろうか。
ゲームソフトのロットごとにキャラクターが違っているのでは、とまで囁かかれている程である。
そんなネクストライフの実績開放は単純だ。
人生の内容は問わない。ハッピーエンドでも、バッドエンドでも構わない。
と言うか、ネクストライフの世界観的にはほとんどがバッドエンドになる。そりゃあ鬱にもなるってものだ。このゲームの製作者は間違いなく性格がねじ曲がっている。
以前にこのゲームを友人に薦めてみたことがあるのだが、その友人は1人目の守護で奴隷の少女を引き当ててしまい、後に精神崩壊しかけていた。
あと性癖が歪んだそうだが、詳しくは聞きたくなかったので聞いていない。開かれるのが悟りじゃなくて新たな性癖って業が深いにも程があるだろ。それ以来、友人にこのゲームを薦めることは僕の中でタブーとなっている。決して、他に友人がいないわけではない。
とまあ、現実より人生の短い世界観ではあるものの、それでも1人分の人生を守護していかなくてはいけないのだから例え時間操作していようとも時間はかかる。
そうして1人の人生を終えて開放される実績は『1人の人生を守護する』のみで、その次の実績開放は『10人の人生を守護する』、さらにその次ともなると『100人の人生を守護する』である。
以降の実績開放はネットでも報告がなく、実績不明として表示されている件数は100を超えている。
ないとは思うが仮にその後も10倍ごとに実績が開放されるのだとすると、全部で1億人以上の守護が必要になってくるのだ。
そりゃあ、実績全開放不可能と言われるのも納得である。
「そういえば、僕はどこでストップしてたんだったかな?」
ネクストライフの設定も完了し、いよいよ久々のログインである。
実に3年ぶりだろうか。
それほど経ってしまっていると、どこまで進めていたかなんて記憶は最早霧の中。
仕事をしている時には感じることのなくなった新鮮な気持ちを持って、僕はネクストライフを起動するのだった。
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