告白死 暗闇の中の太陽

きょうじゅ

暗闇の中の太陽

 わたくしの名はアディテリ。とある大きな街で小さいながらも自分の店を営んでいた、眼鏡職人でございます。男一人の所帯の事とて、暮らし向きに不自由はありませんでした。具体的に言えば、週ごとの同じ曜日、街一番の娼館の、その店では一番安い女の所に通える程度には、です。

 またその女、ソレイユは私の客でもありました。仕事をする際は女たちは眼鏡は外して客の前に出るものですが、その女は近眼ちかめを病むこと日増しに篤くなり、私に特注の眼鏡を求めました。陽除けとしてまた近視鏡としての役割を果たすだけではなく、掛ける事で美しさが増す、そんな眼鏡をです。

 私は職人でございますし、また惚れた弱みというものもございました。女に金はなくとも支払いの手段は困らない訳ですから、最高級の素材を使い、腕によりをかけ、誰もが納得する逸品を仕上げました。しばらく経つと、「両眼鏡りょうめがねの娼婦」、その言葉が街中の評判になるほどでした。店の一番人気の座を、その女は射止めました。私の店の売り上げもうんと上がりました。

 そこで、私はソレイユに話を持ち掛けたのです。お前さえよければ、借財をこしらえてお前を請け出したい、と。

 ……その時のソレイユの嫌悪の表情と言ったらありませんでした。彼女は言いました。眼鏡の代金は金で払うから、関係はこれっきりにしてくれ、と。ソレイユが職人としての私にだけ興味を持ち、男としての私は嫌悪していたという旨を、私ははっきり告げられました。

 私はそれからしばらく、新しい、そして最後の作品に取り掛かりました。一対の作品が出来上がったところで、私はソレイユのもとへ行き、どうしても今夜だけ、一回限りこれきり最後という約束をして、その晩は女の部屋に泊まりました。そして深夜、女の眼鏡を新しく作った作品とすり替え、街を出ました。そして、ここに参ったのです。

 ……ソレイユには癖がありました。朝いちばん、東側の窓の前に立って、太陽の前で伸びをするのです。私の作った最後の作品には、細工がしてあります。通常の日除け眼鏡は太陽光を弱めるものですが、あの眼鏡は逆にそれを極度に強めます。その眼鏡で太陽を見たら、結果はどうなるか。

 では、今からこの眼鏡を外します。はい……如何でしょう。私もまた、これを掛けて天を仰ぎ、自らの両の眼を焼いたのです。

 あの女もとっくに両眼を喪い、そして山に捨てられた事でしょう。誰もが知るように、それが盲人の最期の末路なのですから……

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