姫とデートしたいですよね?じゃオークション開始♪

広田こお

第1話 オークションって何?

「ねえねえ、好きな子いるなら教えてよ?」

と僕は大好きだった学級委員の水城姫子から耳打ちされた。


 それは学園祭の準備で放課後偶然彼女と二人きりになった時のことだった。姫子はなんでも僕が好きな子を教えたら、フォークダンスでその子と踊れるように工作をしてくれるらしい。なんてお節介なありがたい話だろうか。だが、残念なことに僕が好きなのは水城姫子その人だったのだ。


 きれいに整った長い髪が耳打ちする時僕の肩にかかる。良い香りが漂ってくる。どうしようか、白状しようか?そうだ、はぐらかした風に冗談ぽく姫子だって言ってみよう。軽いジャブというやつだ。

 「そんな!姫子さんより可愛い女子なんていないじゃないですかぁ」

と僕は口にした。


 「弘人君、ごまかしたね?ふふふ、じゃ、私と踊ることにしちゃうけど良いのね?今なら間に合う、白状したまえ男子」

 え、マジで嬉しいんだけど!じゃ、是非そうしてほしいと内心思った僕だったがもう一回ジャブを打ってみた。

 「姫子さんはいいんですか?僕、櫻坂弘人は決してイケメンではありませんよ?僕の方は姫子さんと踊れて光栄ですけど」

 どうだろうか?このまま姫子さんが僕と踊ることを承諾してくれればと内心ドキドキしていると。


 「オーケー!踊ってあげよう。感謝しなさいよ?で、工作してあげた見返りというわけじゃないんだけど……」

 とちょっとモジモジする彼女。

 「ああ、明日の昼ごはんはおごるよ?菓子パンでいい?」

 彼女との明日の接点をさりげなく増やす僕。すると彼女は

 「ありがとう!話わかるじゃん」

 と大喜びしてくれた。


 ああ、幸せだ。ダメ元で文化祭委員に立候補したかいがあるというものだ。もちろん彼女が学級委員で何かと行事にかかわることが多いと睨んで打った布石だ。


 「それでさ、文化祭のバザーなんだけどもう少し品物欲しいんだよね。ちょっと豪華なやつができれば、どっかからか調達できないかなぁ」

 と姫子は僕に相談を持ちかけた。


 僕が何か買ってしまえば、それで話は終わるのだがあまり健全ではないだろう。


「ネットオークションで何か買ったらどうかな?」

と僕は口に出す。

「オークション?」

不思議そうな声で彼女は繰り返す。


「うん、時々さ、掘り出し物があるんだよ?ほら、このアプリなんだけど」

と僕は彼女と寄り添うように座り、彼女にスマホの画面を見せる。


「へー、この人形なんか可愛くて安いね!うん、良さそう。ありがとうね」

と彼女はまっすぐ僕の目を見て笑顔を見せ喜んでくれた。


 次の日、姫子がやってきた。


「おはよー弘人くん」

と彼女にはめずらしく気怠そうな挨拶をした。

 

 いつもなら明るく「おはよう弘人くん、今日もイケメンだね?」とかミエミエのお世辞まで使って気を遣ってくれる彼女が、である。


「おすおす、姫子さん。いつも早いのに、やや寝坊気味ですねー」

 とちょっと揶揄してみると彼女は


「いや、弘人に教わったオークション魔界やわ……予算オーバーですわ」

 とボヤく。

「ど、どうしたの?」

「どうしても欲しい人形があってさ、で値段がドンドン上がってさぁ、結局買ったんだけど」


あ、ああ。そういうことね。オークションにハマっちゃったのね?姫子さん。

「クラスの予算に収まった?」

首をだまって振る姫子。

「え、足りなかった?じゃ、どうするの?」

「姫子がお小遣いで補填しました……」

う、うう。悪いものを教えちゃったかな?好きな子に嫌われるかもしれないという危機に僕は今立たされているのか?


「姫子さん、ごめん。僕があんなもの教えなければっ」

 と僕は平謝りだ。


すると彼女は不思議なことを言った。


「いいのですよ。これもビジネス。ビジネスなので、仕方ないのです」

た、達観していらっしゃる!さすが水城姫子さま!学級員になるだけの存在。クラスの中心。学園の人気者。一般人とは格が違う。


「と、とにかく、ごめんね。お詫びに明日も奢るから!」

正直財布は痛むけど、彼女との接点が増えるのは嬉しい僕だったり。


「ありがとう弘人くん。うれしいよぉ」


 泣き崩れる姫子。そんなに人形を高額で落札したのか?


「来月のお小遣いまで前借り……。わるいけど、しばらく弘人の菓子パンに世話になっても良い?そのぉ、明後日も奢ってくれると嬉しい……。ごめんなさい迷惑かけて」


 泣いている彼女を放っては置けないよ。


 「おごるよ、おごるって。明日も明後日も、ずっと毎日」

 「本当に?なんで、そこまでしてくれるの?」


 それは姫子さんが大好きだから、とは言えず。


 「オークション教えたの僕だしさ、責任感じているんだ」


 と弁解する僕。どうしよう接点が増えまくりで嬉しすぎるのだけど。でも泣いている彼女の手前そうも言ってられないし。

 

 「弘人ーー」

 と彼女は僕の名前を叫ぶと。僕の手を掴み。


 「ありがとう、ありがとう。本当にありがとう」

 とありがとうを3回言った。


 僕はこの時、まさか、彼女が転んでもただでは起きない商売人魂を見せ、このクラスのオークション王になるとは思ってもいなかった。

 それは嵐の前の静けさだった。僕は毎日、彼女に菓子パンを買い一緒に仲良く昼食をするのが日課でとても満ち足りた学園生活を送っていた。


 菓子パンを続けておごると、彼女は僕がなぜそんなにお金に無頓着なのか不思議に思ったらしい。


「ね?弘人くん。毎日菓子パンありがとうね?お小遣い大丈夫?」

と聞いてきた。

「まぁ、いや、実は僕結構お金持っているし、ダイジョブだよ?」

 ぼくはやんわり事情をいうのを避けたが、彼女は不審に思ったらしい。僕に何度も言い方を変えては、僕の金銭事情を心配した。ついには僕は、株式投資を子供のころから始めていて、結構潤っているという話を打ち明けてしまった。

「株ってなに?」

「オークションと似てるかな?どうしてもほしい株があったら、僕は全力で買うことにしていて、それが良かったのかな」

「弘人君も、どうしても手に入れたいものがあったら、やっぱり全力なんだ」

 と姫子は僕を思わし気な目で見つめると。

「姫子のことはどう思っているのかな……」

 とものすごい小声で言った。

 そんなことを言われたら男の子としては期待してしまうよね?僕だって期待した。思えばこれが前兆だった。

 

 そんな生活が一週間経ったころ。

 まるで当然のように、クラスの中心女子である水城姫子と僕が2人で菓子パンを仲良く食堂で昼食べる風景を見て、それを心良く思わない人間が学園にはもちろん居た。


「おい、ココいいか?」

僕が良いという前にその男は姫子と僕が並んで食べているテーブルの前に座った。


「俺様の名前はハルト。荒海晴人だ。学園じゃぁ、ちょっとした顔だから知ってるだろ?」

 ハルトはニヤニヤ笑いながら僕に話しかける。

「おい、おまえ姫子に菓子パンを毎昼おごっているらしいな?金の力でみんなの水城姫子さんを独り占めか。キタねーぞ」


「ハルトくん、そんなんじゃないの。これは姫子が悪いの」

「姫子は黙っていて!荒海、俺はお前と正々堂々戦う。汚いことはなしだ」


 僕は荒海に精一杯の虚勢で対峙した。するとハルトは口を歪ませると、


「いいだろう。俺も男だ。お前の土俵で戦ってやるよ?金の力でもお前に勝てる男だって証明してやる。じゃぁな」


 と言い、僕を睨めつけながら去っていった。


 また、ある時のことだ。僕は水城姫子と一番仲が良い女子の木田早苗に廊下で呼び止められた。

「櫻坂君?ちょっといい?」

「何?」

「最近さ、姫子付き合い悪いんだよね。そのね。言いにくいんだけど……」

「うん、何かあったの?」

「櫻坂くん姫子とずーと昼一緒にいるでしょ。女子の間で噂になっているよ?」

 そ、それは当然そうなりますよね。

「でさ、相談なんだけど。私がうまく女子には言っておくから……」

「ありがとう、木田」


「事情は知っているけど、一か月したら姫子を返してくれる?」

と木田はニッコリと笑って僕に、昼にこれ以上姫子と付き合わないように警告した。女子の間でそんなに噂になっているなら、やむを負えないか。


「わかった。姫子と毎日昼一緒にとるのは一か月したら控えるようにするよ」

 シブシブ僕は姫子の親友にそう約束せざるを得なかった。


 一ヶ月が経過した。最後の昼休みに姫子は

 「一ヶ月ありがとう、本当におごってもらえるとは思ってなかったよ。弘人くん、君がいなければ私は餓死していただろう、これからは弘人さまと呼ばせていただきます」

 え、弘人くんのほうが嬉しいんだけど?距離が遠くなるようでそれは嫌だぞ?


 「そんなぁ、様付けは止めてよ。いままでどおり弘人くんで呼び続けて欲しいな?だ、だめかな?」

 「弘人さまを君付けで呼ぶなんて!……ムリ」

 なんか大変なことになってきた。


 「じゃ、僕も姫子様って読んじゃうぞ?」

 明るくからかったら、やめてくれないかなぁ?

 「わたしにそれを止めさせることなんて、とてもとても」

 と恐縮する彼女。


 こ、困った。


 「お願いだから、くん付けで!さま付けはナシってことで」

 食い下がる僕に姫子は


 「うぅぅ。じゃあ、くん付けにします。しますけどぉ。あまりにも心苦しいから、弘人くん、なんでも私に言ってね?できるだけのことはするから」

 と彼女は言った。


 え、なんでも?付き合ってもらいたいのだけど。その男女交際開始的な。しかし菓子パン一ヶ月でそれはいくらなんでもやりすぎか、と思ったので僕は。


 「じゃ、じゃぁ、キスして?なーんて無理だよねー」

と言ってみた。これでこういうこと言うのも、止めてくれるといいのだけど。

 と思って洒落で目をつぶったら。


 僕のほっぺになにか暖かい感触がした。


 え、えええええ。

 目を開けると彼女はもう顔を離していた。


 「キス、したの?」

 コクンと頷く彼女。

 「冗談だって、わかるだろ?」


 あまりの展開に焦る僕。き、気まずいぞこれは。悪い男になった気分だ。

 「いいの。気にしないといけないのはコッチだから」

 と姫子の目は潤んだままだ。


 かわいい。かわいいけどさ。


 「ば、バカなやつだな」

 あまりに照れ臭くてありがとうが言えない僕。

 

 思えばこの頃の姫子は可愛かった。そして、僕も幸せだった。誰が想像するだろうか、この愛らしい少女が挫折から立ち上がり、学園のオークション王になるとは。


 次の日の朝、僕の下駄箱には一通の手紙が届く、その内容は普通のようで普通じゃない内容だった。

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