第18話 少女、初めての依頼
特に何も厄介事も起こらずに冒険者ギルドから出て来たアンジュは、小さくため息を吐きながら町から出る門へと歩き始めた。
アンジュがこうして冒険者になった経緯は、数日前にさかのぼることになる。
「よし、そろそろ冒険者になってこい」
「は?」
いつも通り、突拍子もなくそう言い放ったナハトに疑問符を返してしまったのは、アンジュが悪いわけではないだろう。
「俺が貴様に教えることはもうない。ここからは貴様が自分で色々なことを経験し、自らの技能を磨き上げなければならない。何が必要で、なにが不要かの取捨選択、そして必要な技能を磨いて昇華させることが必要だが、それは俺が教えることではなく、自分で経験した人生の中から、そして自分の目的に応じて行うべきことだ。という事で、貴様は冒険者になり、そこで様々な魔物や人間と戦い、広い知識を身に付けてくるべきだ。一か所に留まっていることは、個々の技術を磨き上げるだけならばいいのかもしれないが、視点を変えられないからな。もっといろんな視点から見て考えることが出来るようになるならば、冒険者になるのが最適だ」
とはいえ、アンジュにとっては突拍子もないことであっても、ナハトにとってはしっかりと理由もあることであるし、それが実際に説得力のある内容だからこそ、これまでもアンジュは言われた通りにしてきた。
それに、アンジュも最近は自分の成長が鈍くなってきていることを実感してきていたから、渡りに船といったところだろう。
そして、ナハトも言っているように強くなるだけではなくそろそろ吸血鬼の殺し方についても勉強したいと考えていたのだ。
確かに、先人の知恵を身に付けに行く必要がある。
ナハトの城でもいろいろな勉強が出来るとはいえ、全てナハトの興味のままに集められた書物であるので、どうしても偏りが生じていたことは否めないのだから。
「さて、そうと決まったら即行動だ。早速行ってこい」
やはりナハトはやると決めたら速攻でやる男だった、アンジュは今その決定を聞いたばかりだというのに、その数時間後には本当に城から追い出される羽目になっていたのだから。
「あれ、やっぱり改めて思い出してもムカつくな? せめて準備位はしっかりとさせてくれても良かったのに」
改めて数日前のことを思い出して、あまりにも突発的に決められたことに、思い出しながらムカつき始めて来たが、もう遅い上に今は冒険者として依頼を受けているのだ。
そこまで急ぎの依頼ではないとは言われているものの、よく考えたら今日の宿も決めずに出てきてしまったので、出来るだけ早く依頼を終わらせて、マリーに近くのおすすめの宿や食事処を聞きに行きたいところである。
というか、考えてみれば今日はまだまともな食事を摂っていなかったことを思い出したアンジュは、丁度いい匂いを周囲に漂わせていた屋台へと近づいて行った。
「おじさん、肉串二本くれ」
「おう、嬢ちゃん、二本で銅貨2枚な」
代金を支払って串を受け取ると、アンジュは歩きながらそれを頬張った。
もちろん、ナハトが作る料理や、そして自分で作った料理には及ばないものの、焼いてタレを付けただけとは思えないほどに美味しかった。
二本だけでもそこそこのボリュームがあったので、ゆっくりと味わいながら、アンジュはこれから依頼前には出来るだけこの肉串を食べに来よう、と心に決めるのだった。
「……ふぅ、こんなもんでいいかな? 何匹駆除なのか、はっきり聞いておくんだったな」
森の中に入ってしばらく、アンジュは何度目かも忘れたがゴブリンの群れを殲滅していた。
少しアンジュも高揚していたのか、依頼の詳細を聞くことを忘れていて、何匹駆除したらいいのか、どこで駆除するべきだったのかなど分からないまま森の中に入ってしまったのだ。
それに気が付いたのも、最初の群れを殲滅してからだったので、それならいっそ広範囲で、出会った奴をかたっぱしから殲滅することにしてしまっていた。
もちろん、冒険者ギルドでいつもこんな欠陥だらけの依頼を出しているわけではなく、初めて依頼をこなす人間に対して、依頼を受ける際の注意事項を教えるためのチュートリアルのようなものだった。
依頼を受ける際は細かいことも確認しなければいけないという事、また討伐依頼なら討伐証明部位についてなど、いちいちギルドが教えることはしないので、依頼を受ける際は魔物ごとの討伐証明部位についても自分で調べたり、聞いたりしなければならないのだ。
こういったことは、冒険者に夢見て登録するものに多いのだが、最初に言葉で教えても聞く耳もたないやつも多いので、一度は自分で痛い目を見てもらうために決められた措置であった。
とはいえ、最初っから失敗とさせるのも可哀そうなので、態度が悪くなくてしっかりと反省をするようならば、少な目ではあるものの報酬は支払われるようになっているのだが。
そして、アンジュも今回、確認するのを忘れてしまった人間だった。
その結果、どれだけ倒せばいいのかも分からず、索敵しては手あたり次第に殲滅するようにしているのだが、いくら繁殖力の強いゴブリンとはいえあまりにも多すぎるのではないかと思い始めていた。
実際、途中からは数えるのも面倒になってきたので数えてはいないが、それでも既に三桁は軽く超えていそうなほどに遭遇していた。
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