第12話 少女、初めての実戦

 改めて、オーガと対峙しているアンジュの胸中には、恐怖はまだ完全に消え去ったわけでは無かったが、それでも恐怖に支配されて我を忘れるようなことは無かった。

 むしろ、恐怖を持ちつつもどのようにして、今のアンジュにとっては強大な、目の前のオーガを攻略するかという事を冷静に考えられていることを考えるならば、全く恐怖を感じずに特攻するようなことがなく、戦闘をするという場面では非常に理想的な心理状態であると思われた。


 とはいえ、


(攻撃は一度でもまともに喰らったら負け、動きの速さも、小柄を活かした小回りでは勝っても単純な動く速さなら負けている。体力的にもオーガがすぐにばてるなんてことは期待しない方がよさそう。それに私の腕力じゃ一撃で致命傷なんて与えられない。相手の攻撃は全て避けつつ、全ての攻撃を正確に急所に当ててなんとか、って所かな)


 彼我の戦力差は軽く見ただけでも圧倒的、加えてアンジュの方は初めての実戦というハンデ付きなのだから、冷静であるだけでは到底勝ち目はなく、完全に理想通りに動けても勝率は五分、いやそれどころかまだオーガの側に寄ると思われた。


「ガアァァア!」


 とはいえ、アンジュがゆっくりと作戦を考える時間なんて当然オーガが与えるわけも無く、接近して自らの持つ棍棒の範囲に入ったと思えた瞬間、思い切り振り上げた棍棒をアンジュに向けて振り下ろした。


 その棍棒を横に飛ぶことで躱したアンジュだが、振り下ろされた棍棒の風圧、そして地面にめりこんでいる棍棒を見て、改めて攻撃を喰らってはいけないという考えを深く感じていた。

 そして、相手が攻撃をしてきて隙が生まれてきてる今の時間を無駄にすることは出来ないと手に持ったナイフをオーガの顔に目掛けて突き刺そうとして、そこで自分の失敗に気が付いた。


 最初にオーガが棍棒を振り下ろしてきた際に、オーガの身体を正面とする向きに避けていたのだ。

 初撃をよけられたという点では失敗とは言わないようなものだったかもしれないが、その後のことを考えると、そしてそのままアンジュがオーガに向かってしまったことを考えると、失敗というほかないだろう。


 オーガは棍棒を握っている手とは逆の手でアンジュに向けて薙ぎ払ってきた。

 直前で自分の失敗に気が付いていたアンジュは、何とか身体に急ブレーキをかけようとしたが、動き始めた身体が簡単に止まることも無く、あと少しで腕が身体に当たるというところで、無理をしたことが祟ったのか、それとも不幸中の幸いか、足元にあった石で体勢を崩して地面に倒れ伏せることになった。

 そのおかげで、アンジュに腕が直撃することはなく、頭のすぐ上をブゥンと風切り音を立てながら通過するだけに終わった。


 偶然に命を救われながら、アンジュは一度オーガから距離を取ろうと足元にあった石をオーガの顔面に向けて投げつけると、急いで立ち上がり飛び退いた。

 正直当たっても大してダメージは無かっただろうが、それでも目に入ったら危ないと感じたのか回避行動に移っていたオーガはアンジュを即座に追ってくることは無く、地面に叩きつけていた棍棒を持ち上げ、距離の離れたアンジュにもう一度近付こうとしてきていた。


「ふぅ……」


(危なかった、もっと無駄なく行動しなきゃ……。それに、ナイフで攻撃することしか考えていなかった、もっと何でも使わなきゃ、勝てるはずもない。それに、そもそもオーガの方が倍以上に大きいのにいきなり顔を狙ってもあたる訳も無かった。もっと考えろ……)


 距離を離して一息入れながら今の行動に反省し、そして先手を取られ続けてはじり貧にしかならないと今度はアンジュからオーガに向かって走り出した。

 もちろん、ただ走るだけではなく、走りながらも魔力を集中させると、ナイフをオーガに向けて投げつけた。

 するとオーガは足を止めて飛んでくるナイフを叩き落とした。


 ガクンッ


「ウガッ!?」


 しかし、その直後にオーガは足元の地面が急に泥のような、沼のような、先程までの踏みしめてなお丈夫だった地面が頼りないものになったことで、足を滑らせて体勢を後ろの方へと崩してしまった。

 見ると、いつの間にオーガの足元まで来ていたのかアンジュがオーガの足元の地面に触れており、そこから扇状に広がる様に泥が広がっていた。


「っせい!」


 そして、体勢を崩したオーガの足を両手で抱え込むように掴むと、思い切り引っ張って、オーガを地面に倒すことに成功した。

 全力でオーガの足を引っ張ったことでアンジュも少し体勢を崩していたが、すぐに立ち上がり幸運なことにすぐ傍に落ちていたナイフを拾うと、オーガの首筋に向けて馬乗りになりながら思い切り突き下ろした。


「グゥオッ!」


 首にナイフを刺されては流石に苦しかったのか、うめき声を上げながらオーガの首元から血が吹き出て来た。

 ナハトからは、生物の身体の構造についても授業を受けていたことで首には大きな血管があることは知っていたが、詳しい場所、それもオーガの身体についての詳しい理解など無かったから一種の賭けではあったが、アンジュはその賭けには勝っていたらしい、オーガの首元、ナイフの刺さった部分からは、ナイフが刺さったままだというのにはっきりと分かるほどに血が流れ出ていた。

 恐らく、このまま放っておいてもオーガはいずれ力尽きて命絶えることだろう、しかし、勝利を確信してしまったアンジュは注意が散漫になっていたのだろう、気が付くことが出来なかった。


 ガシッ


 気が付いたのは、アンジュの身体をオーガの大きな手が掴んだ後だった。


「やb……」


 回避することも出来ずに、次にアンジュが見たのはとてつもないスピードで動く周囲の景色と、急接近してくる地面だった。


 ドガッ


 オーガに馬乗りしていたはずのアンジュは、オーガによって身体を掴まれて地面に叩きつけられたのだ。


「ゲホッ!? ガ、ハァッ!」


 地面に勢いよく叩きつけられたことで身体中至る所がズキズキと痛む、おそらく掴まれた時に腕と、そして叩きつけられた時にあばらの何本かも折れているのだろう、耐えがたい痛みに襲われていた。

 恐らく、叩きつけられた衝撃で呼吸が出来なくなっていなかったら、大声で叫び、のたうち回っていただろう。

 頭にも酸素が回っていないのか、それとも衝撃で何も考えられなくなっているのか頭は真っ白なままだったが。


 そうしているうちにも、オーガはナイフで刺された首元を抑えながらゆっくりと立ち上がって来た。

 いつの間にかナイフを抜いていたようで血の流れ出る勢いは強くなっていたが、それでもゆっくりとアンジュに近寄ってくるとそのまま倒れ伏しているアンジュの腹部を蹴飛ばした。


「っ!」


 防御することも出来ずに蹴飛ばされたアンジュはそのまま宙を舞い、何度か地面をバウンドしながら吹き飛ばされていった。

 二度目の衝撃で呼吸は出来るようになったのか、息を吸い込んだが、すぐに咳込み、そして口元には赤い血だまりが出来ていた。


「うぇっp……」


 更に、胃の中の物が逆流してきて倒れ伏せたまま口元からは血の混じった吐しゃ物が溢れ出てきていた。

 もはや動く気力どころか、意識を維持するための体力すらなくなっていたのか、霞んでいく視界の中で、再びアンジュのもとへと近寄ってくるオーガを捉えながらも、アンジュは意識を手放すのだった。



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 戦闘シーン書くのって、大変ですよね……。

 自分が経験したことないようなことを、臨場感あふれるように描写するのって難しいし、おかしいところが無いか確認しても本当に大丈夫なのか不安になります……。


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 いつも励みになってます、読んで下さっている方、いつもありがとうございます。

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