第11話 吸血鬼は少女を鬼と戦わせる
アンジュが何やら悩んでいるようだ。
とはいえ、ナハトも万能、最強の存在ではあるが全知全能でもないので、流石に他者の心のうちまでは完全に理解することは出来ない。
表情や態度、仕草からある程度の感情までは読めるものの、それで分かるのは何かに悩んでいるという事だけで、具体的に何に悩んでいるのかなんてことは流石に分かるようなものでもないのだ。
一体どうしたらいいのかと、ナハトもつられて悩んでいたが途中で考えることをやめた。
結局、分からないものは分からないのだ、いくら考えても分からないのならばさっさと考えることをやめて直接聞くか、もしくは勝手に自分で解決するのを待つために放置するのが一番いいのだ。
という事で、ナハトは放置することにした。
正直なところ、わざわざ悩みを聞いて解決することも面倒くさいし、アンジュも敵として見ている自分に悩みを聞かれることは気分のいいものでは無いだろうから。
なので、ナハトはいつも通りアンジュに訓練を付けることにした。
とはいっても、普段とは少し違うことをすることにはしたが。
「今日からは、いつもの平原ではなく森の中に入って適当な魔物と戦いに行く」
急な訓練内容の変更に、アンジュは少し驚いている様子だったが、特に文句は無いようで素直についてこようとしていた。
初めての実戦という事で少し緊張と、そして不安もあるようではあったが。
とはいえ、ナハトはそこまで心配はしていなかった、アンジュの戦闘センスに関してはそれなりに認めているところもあるからだ。
緊張して身体が動かなくなりでもしない限りは、そこそこの強さの相手でも善戦すると考えていた。
とはいえ、訓練と実戦では天と地ほどの差があるので、その部分に関してはまだ不安があるからこそしばらくはナハトも付き添っての実戦をしようとは考えてはいたが。
適当な魔物、豚の顔をした二足歩行のオークや、もしくは小さく貧弱ながらも群れで連携してくるゴブリンなどがいたら初戦にはちょうどいいのではないかと考えながら森の中をアンジュを連れて歩いていると、遠くからこちらに向かって突進してくる音が聞こえて来た。
「……ふむ、オーガか。初戦にしては手強い相手だが、やってみるといい」
まだ姿は見えていないが力強い足音や、まだ遠く離れているはずなのに伝わってくる威圧感からナハトはその存在が何なのかをあっさりと看破していた。
ナハトからしたら大した相手でもないし、それこそ人間であろうともやりようによっては倒せる程度の、魔物全体で見ても中の下、特殊な個体だと上の下に差し掛かるかという程度の魔物であるので、そこまで脅威には感じていなかった。
しかし、それは世界最強の存在であるナハトだからそう思えるだけで、横にいたアンジュはまだ姿も見えていないアンジュは初めての魔物との邂逅、そして命懸けの戦闘が始まることに気圧され始めていた。
「っは、はっ、はっ!」
緊張からか恐怖からか、息が荒くなり視界も狭まり、オーガが来ていると思しき方向を見つめることしか出来ずにいたアンジュだったが、ついに木の陰からオーガが姿を現した時には、ガタガタと震える身体が抑えられなくなっていた。
「……はぁ、仕方ない」
そんなアンジュを傍で見ていたナハトは、このままではただなぶり殺しにされるだけだと判断し、最初から最後まで手を出す気は無かったが、指先に少し魔力を集めると、軽い雷をアンジュに流し込んだ。
「ぴっ!?」
「何をしている、呆然と震えているだけではただ殺されるだけだぞ。流石の俺でも即死は回復できないし、そもそも今日は実戦をさせると言っただろうが。敵はもうこちらにたどり着くぞ、さっさと戦う準備をしろ」
突如として思わぬ方向から軽い攻撃を喰らって面食らっていたアンジュだったが、それでも少し冷静になれたのか、身体の震えは止まっていた。
……もちろん、初めての魔物との邂逅に対しての恐怖は残っているのか少し顔は引きつってはいたものの、過剰なまでの恐怖からは脱したようで今度こそ近付いてくるオーガに視線を向けつつ、戦う準備をし始めていた。
「それでは俺は少し離れたところから見ていることにするぞ。俺が横にいてはオーガも気が散るだろうし、それでは本気の殺し合いは出来ないだろうからな」
もう手出しは必要無いだろうと判断したナハトは、アンジュにそう告げると近くの木の上へと跳躍し、そして隠密することにした。
突如として完全に存在感を消し去ったナハトに、それはそれでアンジュも驚いていたようだが気を取り直してオーガと相対するのだった。
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魔物の強さを今回、中の下とか表記していますが、そのうち人間たちからみたランク的なものを物語内で話します。
大体十段階で表すつもりですが、今回現れたオーガはオーガにしては弱い方なので、3に近い4といったところです。
数字が大きいほどに強く危険だと思ってください。
特に訓練もしていないような成人男性が適当な武器を持って倒せる程度が1、4になると訓練を積んだ戦闘職の人間が重傷を負うことは無く倒せる程度です。
余談ですがナハトは当然10で、ほとんど倒せるわけがないと諦められるレベルで、そこらの吸血鬼でも6から7程度の力があります。
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