空へのタイムリミット③




尚基は待っていると店員に話しかけられた。


「あの、贈り物の場合はメッセージカードも付けられるんですが、何か書かれますか?」


店員は小さなメッセージカードとペンを差し出してきた。 時間もなかったため、思ったことをそのまま文字にする。

カードと一緒に商品を透明な袋で包んでもらうと、それを受け取り凪紗のいる搭乗口へと走った。 商品をレジへ届けた時点で、搭乗口が閉まるまであと5分。 

時間はあっという間に過ぎ――――あと4分になった。 全速力で空港内を駆ける。


―――まず、凪紗に会ったら何を伝えよう。

―――やっぱり謝る言葉が先か?

―――それとも時間がないから、贈り物を届けて終わりか?

―――・・・できれば、応援の言葉も伝えたい。


だが時間的に、自分の気持ちを全て伝えることはできなさそうだ。


―――凪紗の気持ちも本当は聞きたかった。

―――だけど今回もまた、俺の一方的な発言で終わってしまいそうだ。


角を曲がり、直線を全力で走る。


―――あぁ、くそ・・・ッ!

―――こんなギリギリになるまで、俺が悩んでいたのが悪いんだ!

―――まだ凪紗のことが好きなら、もっと早くに行動を起こしておけばよかった。


搭乗口が閉まるまで――――あと3分。 


尚基はポケットから携帯を取り出した。 もっとも操作する余裕などなく、握り締めたまま走り続ける。


―――このままだと絶対に間に合わない。

―――凪紗に直接連絡をして、身体検査をする場所まで戻ってきてもらうか?


本当は近くにいる空港のスタッフにでも言って、凪紗をそこまで連れてきてもらう予定だった。 だがこのままではそのような時間はない。


―――いや、でも、もし凪紗が俺からの連絡を無視でもしたら。

―――気付かないだけならまだいい。

―――凪紗が俺からの連絡だと分かった瞬間、切られるのが嫌だ。

―――そしたらもう、俺の想いはここで終わりだから。


このようなことを思っている場合ではないと分かっている。 だが切られたくないという思いから、なかなか連絡することができずにいた。 


搭乗口が閉まるまで――――あと2分。 


それでも間に合わなければ元も子もない。 思い立った尚基は、凪紗に連絡していた。 改めて時間を確認し、凪紗自らやってこないと無理だと思った。 悠長に呼んでもらうなんて到底不可能だ。

恐怖心を抑えながら、震える手で携帯を耳元まで持ってくる。


―――頼む、出てくれ・・・。

―――出てくれよ・・・!


片手は携帯を持ち、片手は贈り物を持っている。 走りにくくて仕方がなかった。 バランスが上手く取れずスピードは落ちるし、人にぶつかるしで大変だった。


―――どうして、どうして出ないんだ!


出ないも何も、コールはほんの数回しか鳴らない。 何度かけても『電源が入っていないためかかりません』の繰り返しだった。


―――何なんだよ・・・ッ。

―――どうして俺は、いつもこうなんだ!


搭乗口が閉まるまで――――あと1分。


連絡するのを諦め、携帯をポケットにしまう。 もうボロボロだった。 走り疲れ、身体はもう重くて動かない。 だがそれでも足を動かし続けた。 呼吸がどんなに荒くなろうが、お構いなしだ。


―――頼む、間に合ってくれ・・・ッ!


たくさんの角を曲がり、見えてきたのは身体検査をする場所。 これ以上先には尚基は行けない。 身体検査をする係の男性に声をかけた。


「あ、あの!」


ようやく着いたが、呼吸が整わず上手く声が出ない。 それでも話さなければならなかった。


「あ、アメリカへ行く便は、もう、搭乗ゲート、閉じてしまいましたか?」


途切れ途切れになりながらも尋ねかける。


「あー、そうですね。 たった今、閉まったと思います」

「ッ・・・。 どうしても会いたい人がいるんです! 呼んでもらうのは可能ですか?」

「それは流石に無理ですね」

「じゃあ、せめてこの贈り物だけでも!」

「それは、大事な贈り物でして?」

「大事な・・・?」


男が言っているのは“今すぐに送らないと駄目なものなのか”という意味で聞いている。 今持っている贈り物は、中身が透け透けだ。 

確かに尚基にとっては大切だが、凪紗にとってはいらないものなのかもしれない。 そう思うと、途端に自信がなくなった。


「・・・ごめんなさい。 やっぱりいいです」


―――間に合わな、かった・・・。


心が重くなると、急に疲れがドッと出て身体が重くなった。 その場にゆっくりとしゃがみ込む。 そして目からは、温かい涙が零れ落ちた。


搭乗口が閉まるまで――――あと0分。



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