第46話 [いい人。だがめんどい人]

 我、家帰宅。怠いなり


「ゔゔゔ……た、だい、ま……」


 俺は拳銃に腹でも撃たれたかのように、壁にもたれかかりながら家の中をずりずりと移動をしている。

 リビングに入ると、メガネをかけた姉ちゃんがノートパソコンと睨めっこをしていた。


「あ、お帰り紅羽」

「……メガネかけてるんだ」

「え? あー、普段はコンタクトなんだけど、今日はいいかなって思ったのよ。あまり似合ってないから」

「ふーん……俺はメガネ可愛いと思うけど……」

「ん゛っ!!? そ、そういうのはあまり人に言わないこと!!」


 姉ちゃんはなぜか顔を真っ赤にしてあたふたし出していた。


「……? わかった。これからは言わない」

「あ、えっと……。わ、私には別にどれだけ言ってもいいからね!? ってかもっと言いなさいよっ!!」

「??? ……わかった……」


 相変わらず姉ちゃんはよくわかんないや。


 姉ちゃんも一緒にゲームに誘ってみたが、レポートをまとめるのが大変だと言って今日はパス。

 自分の部屋に行き、グダグダと着替えをし終えたらゲームを始めることにした。


「ふわぁ……。起動」



###



 俺がゲーム内に入ると、大量の通知音が耳を穿ちにきた。


《第一回FOイベント・バトルロワイヤルの準優勝おめでとうございます。景品をメールボックスに贈りました》

「お……そうだった。俺は睡眠グッズを手に入れるために参加したんだった……」


 メールボックスを確認してみる。

 クッションの上でだらけながら目の前に現れた半透明の板をスイスイと動かす。


・レベルアップ瓶×50

・称号【バトロワ2位獲得者】

・スキル【育成】【強靭化】【錬金術】【トラップ生成】

・高級肥料×100

・ハンドガン(★☆☆☆☆)

・ハンドガンの弾×500

・ハンドガンの設計図

 etc……


「…………おかしい。おかしいぞ……」


 俺はメールボックス内を血眼(半目)になって探していた。……そう、んだ。


「睡眠グッズが……ない、だと……!?」


 俺が一番求めていた睡眠グッズが無い。枕も、クッションも、布団も、アイマスクも、なにもかも……。

 俺がしてたこと……全部無意味だった……?


「あ……ぁあぁ……。釣り合わない……あんなに、頑張って頑張ったのに……」


 意気消沈とはまさにこのこと。

 重力が強まったような感じがして、自分が液体になっていく感覚がした気がする。

 そんな時、怒号が俺の耳に届いた。


「ここにいやがったかァ!!」

「ゔごぉ……耳に響く……。ん……? なんかデジャヴ」


 声の主を確認するとそこには、ツンツン赤髪もとい、〝俺の大事な枕を壊しやがった野郎〟がいた。


「…………何か用」

「探したんだぞゴラァ!!」

「何か用、って、言った。あんま話したくないんだけど……」


 俺の大事な枕を壊した張本人ともあって、あからさまに不機嫌な態度を取ってしまう。

 話したくないことは確かだし、早く要件を行ってもらおう。


「だっ……その、よォ……!」

「?」

「チッ!! これ返そうとしてたんだよ!!!」


 赤髪くんが取り出したのは――


《イラの上質枕を受け取りますか? はい/いいえ》


 枕だった。


「戦いとはいえ、テメェの大事なモンだったっぽいしな。壊して悪かったよ」


 わざわざ俺を探して壊してしまった枕を返そうとしている。とても言動には似合わないことをしている。

 が、それは違う。


「……俺が持ってたのは極上枕……。上質なんてものに収まるものじゃない……」

「あぁ!? 枕なんて全部おんなじだろうが!!」

「全然違う……! お前に枕の何かわかる……」

「何もわからねェよ!! とりあえず受け取れゴラァア――ッ!!!!」


 押しに押され、とりあえず枕を受け取ることになった。

 というか、俺のつけてる仮面で見つけにくくなってるんじゃなかったのか? なんでこいつは俺を見つけ出せたんだろう……。


「これでよしだぜ!! 今日のとこはもう諦めるが、テメェは今度絶対倒してやるからな!!!」

「……だるい……」


 ずっとキレてるけどいい人なんだろう。

 ……まぁいい人なんだろうけど、面倒なことには変わりない人だ。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


ギャップ萌……いや、コイツはスキルとか的にもギャップ燃えか……?


え、うるさい?

黙りまーす。

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