第1話 [勧誘されが……]

 朝日が差し込む教室。そんな中で眠る、容姿が変わっている一人の少年がいた。

 彼の名は銀水ぎんすい紅羽くれは。サラサラの銀髪に整った顔。右目が紅玉ルビーのように美しい瞳だが、左目は普通に黒色なのだ。

 その少年は、クラスメイトからの大声で目を覚ましてしまった。


「おーーい! くーれーはー!!」

「ゔ〜ん……朝っぱらからやかましい……」

「なんだよつれねぇなー。ていうか今日早いな……なんかあった?」

「ああ……昨日学校から帰るの面倒だったからここで一晩……」

「え!? まじかよ……。お前相当めんどくさがり屋だよなぁ…ん。てか親心配しなかったのか?」

「大丈夫。親に連絡し……ずー……」

「だぁーー! また寝やがった!」


 このさっきから騒がしいこいつは小学校から一緒の火花優流ひばなすぐる 。高校二年生になって同じクラスになった。

 茶髪で癖毛。テンション高い所が受け入れ難いところだ。うるさいし。


「あ、見てみて、紅羽くんまた寝てる。イケメンだねぇ〜」

「本当、かっこいいわね……しかも銀髪でオッドアイでカッコいいし!」

「ああやって少し抜けてるところもいいよね〜」


 クラスの女子たちが何かを喋っているが、寝起きだからほぼ聞こえてない。俺の悪口?


「おーい紅羽、お前が話題になってるぞぉ」

「ん〜……うるさい優流はうるさい男……」

「んだとゴラ。そういうお前は〝めんどくさがり屋〟だろうが!」

「まったく……あ、そうだ!なあなあ、最近有名なゲーム知ってるか!?」


 ……コイツとはなんやかんやで長い付き合いだというのに、俺の性格を本当に理解してないのだろうか?

 俺が知るわけないだろう。


「その顔は知らない顔だな……」

「当たり前だろ」

「ゴホンッ! この俺が哀れなお前に説明してやろう!!」

「要らない」

「ちょっとは興味持ってくれよぉ〜」


 はぁ、と溜息を吐く。仕方がないので聞いてやることにした。


「そのゲームな、VRゲームなんだってよ! 異世界に行ったみたいな感覚になるらしいぞ! 俺予約で当たったからお前も予約して買えよ!」

「めんどそう……一人でやってろ」

「まあまあそう言わずに……なんとそのゲーム、体感時間が加速されるらしいんだぜ?」

「ん……? つまりそれは……」


 体感時間の加速。だったら眠る時間も多く感じられるのではないか……!?


「まー、やんないってんならシャーないなー。他のやつ誘ってみっかー」

「おい、待て!」

「痛てててててて! 腕腕!! そんなに強く握るなぁ!! 折れる!!!」

「それはつまりそん中でずっと寝てられるってことだよなぁ……。教えろ……!」


 絶対に逃がさん。俺の真のダラけ道はこっちかもしれない……!


「お前普段だらけて痩せてるくせに、こういう時だけ力強ぇな……。しかもこんな積極的なの珍しいな」

「いいから、話せ」

「わかったよ。そのゲームの名前はWorld Front Onlineワールド・フロント・オンライン、通称WFOって言われているやつだ」

「それで?」

「このゲームでは冒険したり、魔物を倒したりするファンタジー作品らしい。MMORPGって言うんだっけ?」


 魔法、か……。テンション上がって来たな。

 だって、魔法があれば動かなくても物が取れたり、寝ながら移動できるものだろ? ……楽しみになったきた。


「因みにだが、一時抽選で当たった人は今日にはもう届くらしいぞ?」


 楽しみという感情が一変、嫌な予感がしてきた。


「……抽選してない人は?」

「二次抽選を待つしかないなぁ」

「…………。それは、いつ」

「来月、かな……?」

「寝る」


 バタンッ、と机に突っ伏して俺は再び眠ら始める。


「ああッ! 無理だとわかった瞬間寝やがった! ちくしょ〜、お前がいたら絶対楽しいと思ったのによぉ〜」


 あ、今日は帰らないと姉ちゃんに叱られるな。……はぁ、めんどくさ。

 そんなことを思いながら、眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る