願望
翌日の日曜日。
朝の十時過ぎ。
「じゃあ行くか」
「うん!」
待ち合わせた駅前で満面な笑みの穂花と共に二人並んで道を歩く。もちろん、穂花はおれの腕に抱きついている。白昼堂々、イチャイチャしているわけである。
それに見ればわかるが、その豊満な胸がめちゃくちゃ当たってるんだぞ。羨ましいだろ。
おれと穂花は駅前にあるショッピングモールへと向かっていた。
このお出かけが毎週のお決まり。
土日のどちらかは必ず二人で出かけることにしている。最も、土日の両方出かけることもしょっちゅうあるが。
「あー、やっぱり優君の匂い落ち着くー。これがないとだめ。優君の匂いが詰まったフレグランス発売されないかな」
おれの腕にくんかくんかと鼻を当てながら、言う。
「どこのメーカーが作るんだよ。ってか、そんなフレグランス、誰得なんだよ」
「私!!!!!!」
大声を上げながら、やたらと胸を張る穂花。
別に威張るところではないと思うが……
「いや、待って……?優君の匂いだけじゃ物足りない……本人がいないと……ってことは、ロープとテープでイスに固定して……で、私抜きでは生きていけない身体にして……」
「って、おい!不穏すぎるワードがなんか聞こえてきたんだけど!?」
「はっ……!しまった……心の願望がつい口に……」
穂花は慌てて口に手を当てる。
やめて……そんな願望……
てか、どんな願望を抱いてんのよ……
もっと健全なお付き合いでお願いします……頼むから。
おれは心に一抹の不安を抱えたまま、そのまま道を歩いていくのだった。
♦︎
「相変わらず混んでるな」
「だね」
程なくして、ショッピングモールに辿り着いたのだが、週末ということもあって案の定、賑わっていた。
「じゃあ、まずは上に上がるか」
「うん」
おれ達はエスカレーターを使い、4Fにある映画館に向かう。
おれと穂花は無類の映画好きでもあって、週末にはほぼ毎回と言っていいほど、映画を見ている。映画館の何回か見ると一回無料の会員システムも有難く使わせてもらっている。
今日は洋画の話題作を見に来た。
シリーズもので待望の続編らしく、こちらとしても期待せざるを得ない。
「じゃあ、チケット発券するか」
「うん」
おれ達は4Fに着くと、まずはチケットの発券機に向かった。無論、穂花はおれの腕に掴まったままである。
なので、案の定、周りから視線が飛びまくってくるわけである。しかし、もう慣れっこだ。むしろ、おれと同い年の男子を見つけると、羨ましいだろ、お前ら。とさえ思っている。
あ、でもメリケンサック出してきた奴がいる。どこに持ってたの、やめて下さい。お願いします。暴力反対。
命の危険を感じつつ、チケットの発券を終え、お次はポップコーンとドリンクを買いに行く。
「いつものください」
売店で店員さんにそう言う。
いつもの。で通じるほど、おれ達はここに通っている。もちろん、店員さんもおれ達のことを覚えている。
「了解しました……って、相変わらずイチャイチャしてんのかい、君たち」
「羨ましいですか?」
「むしろ、殺気が湧くよ」
はははと笑いながら、手際よく作業を進める。
おれと会話していたのはここでアルバイトをしている
近くの大学に通う大学二年生だ。
茶髪で天パ、整った顔立ちというどこかの漫画のキャラみたいな人。
まぁ、本人曰くだが、そこそこモテるらしい。
毎週のように通っているので、すっかり顔なじみになっている。
「はい、お待たせ。周りのことも考えてね」
ポップコーンとドリンクが入ったトレーを置きながら、そう言う。
イチャイチャをということだろう。
映画館だからとハメを外す者も多いのだろうが、おれ達は違う。はず。
「大丈夫ですよ」
おれはトレーを受け取り、笑顔で言った。
「さ、いよいよだな」
「楽しみだね」
ウキウキとした穂花の声。
確かに楽しみだ。さてさて、どんな内容なのか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます