ゾンビ
「ありがとうございましたー」
店を出る際、コンビニの店員さんの声が後ろから聞こえてくる。
今は夜の八時過ぎ。
おれはコンビニで酒のつまみを買いに来ていた。もちろん、おれが食べるのではなく、父さんのである。
ビールはあるが、つまみがないから買ってきてくれと言われ、こうして来た次第だ。
それくらい自分で……と思うが、普段忙しく働いていて、たまの休みなんだから、それくらいしてやるかと思い、来たわけだ。
まぁ便乗して、おれもお菓子を買えたし、ウィンウィンと言えるな。
コンビニ袋を片手に持ちながら、家への帰路についている時だった。
「うう、ううう……」
後ろからそんなうめき声のようなものが聞こえてきた。
な、なんだ……?
まさか、変質者でもいるのか……?
しかし、後ろを振り向く勇気はなかった。
こうなったら、早歩きで家に向かって、さっさと玄関に入って、鍵を閉めよう……
そう心に決め、おれは歩きを早めるが、後ろにいるであろうその人物も歩きを早めたように感じた。
う、うそだろ……
まさかとは思ったが、狙いはおれか……?
くそ、どうしておれなんだよ……
たまにニュースで見る男が男を襲ってしまう変質者とか……?
「……!」
意を決して、おれは駆け出した。
もうすぐで家だ……
中に入ってしまえば、こちらのもの……!
しかし、おれの目論見は甘かった。
「逃がさない……」
そんな声が聞こえてきたかと思った瞬間、後ろにいたはずの人物はおれのすぐ横に迫っていた。
「なっ……!」
そして、おれの肩をがっと掴んでくる。
「優君……」
お、おれの名前を……って、今の声……?
「穂花か……?」
おれはゆっくりとその顔を覗き込んでみる。
目の前にはやはり穂花がいた。
出かけていたからか、ワンピース姿でとてもかわいい。
「優君……」
穂花はおれの名前を再び呼ぶと、ぎゅっと抱きしめてきた。
「連絡……どうしてくれなかったの……」
「え、連絡って……お前からの連絡がないから、てっきり楽しんでるのかなって……」
「優君からの連絡の後に送ったんだよ……なのに、優君から連絡来なくって……」
「え、あ……?」
おれは慌てて携帯を取り出す。
「あ……」
そして電源ボタンを押してみるも、画面が点かない。理由は単純。電池切れだった。
そういえば、昼間ネットばっかり見てたから、電池使っちゃったのな……
「悪い、電池切れだ……」
「ん、はぁ……足りない、優君が足りない……」
おれは抱きしめながら、思いっきり鼻から空気を吸う穂花。
しかし、だめらしい。
「ちょっと優君をさ、一日借りていい?」
「いや、無理だよ!?」
そんな図書館にある本みたいな感覚で言われても。
「このままじゃ、私、死んじゃう」
「えええ……」
困ったな……
しかし、連絡を取らなかったのはおれのせいだし、どうするか……
「あ……」
その時、おれはポケットに一日使っていたタオルが入っているのを思い出した。
「これ……」
おれはポケットからタオルを出す。
すると、目にも止まらぬ速さで穂花はそれを引ったくった。
速すぎだろ……
「今日はこの辺で勘弁してやる……」
まるでどこかのガキ大将のようなセリフを吐きながら、穂花はゆっくりと暗闇に消えていった。
あのタオル-…もう戻ってこないな……
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