キモい
ファミレスで昼ご飯を終え、おれ達は家に帰ってきていた。
そして、買ってきた食材を台所に並べる。
「一口サイズに切った後、これを炒めるのか?」
「うん。弱火から中火の間で炒めるんだって。五分くらい」
携帯で調べ、ネットに書いてある情報を兄貴に伝える。
「わかった」
そして兄貴はヘラを使い、火にかけたフライパンの中にある食材を混ぜていく。
カレーって、ただ煮込んでるだけだと思ってたけど、炒めるのか……
意外と手間かけてたんだな。
いや、こんなので手間をかけてたなんて言ったら、他の料理なんてとんでもない手間ってことになってしまうな。これは比較的……というか、かなりラクな方なんだろうな。
「それより……」
おれは手元にある携帯に目をやる。
穂花から連絡はないけど、大丈夫なのかな。
朝一に連絡が来てから、その後全く来ていない。
いつもなら三十分に一回くらいは連絡来ていたのに、こんなのは初めてだ。
まぁそれだけ楽しんでるってことかもしれない。それならそれで良いことじゃないか。
「おい、次はどうするんだ?」
「あ、えっと……」
おれは慌てて、携帯のウェブサイトを開き、続きを兄貴に教える。
♦︎
「うん!中々美味しいね」
試食で一口食べ、おれは言った。
「そうか。それならよかった」
兄貴はホッとしたような笑みを浮かべた。
たかが、カレーと思われるかもしれないが、今まで料理をほとんどしたことないおれ達にとって、これはかなりの進歩だった。
「これなら父さんも納得するんじゃないかな」
「ほぉ、オレの舌を満足させられるとな?」
「え!?」
その声に反応し、咄嗟に後ろを振り向くと、そこにはボサボサの髪に寝巻き姿の父さんが立っていた。
髭もかなり伸びている。
「いつの間に後ろに……」
「これぞ、長物の鍛錬のおかげだな」
「なんの鍛錬だよ……」
ってか、いつそんな鍛錬積んだんだよ……
「それより、カレーを作ったんだってな。やるじゃないか」
「昨日、色々うるさかったからな。しかし、父さんの言うことも最もだと思ってね」
兄貴は皿にカレーを装いつつ、言う。
「とりあえず食べてみてくれ」
「それなら早速……」
言って、父さんはスプーンを使い、ガツガツと食べ進めていく。すごい勢いだな……
「おかわり!」
「って早すぎるだろ!?」
スープみたいに飲んでいったぞ!?
ご飯もあったはずなのに。
「何言ってんだ。カレーは飲み物だろ?」
「どこの食レポ芸人だよ……」
「まぁ、それくらい美味かったってことだ。この調子でどんどんレパートリーを増やしていってくれ」
「まぁ努力するよ」
父さんの反応が上々だったので、兄貴はまんざらでも無さそうな表情でそう答えた。
「優も頑張れよ」
「え、あ、うん……」
今日、おれがほとんど何もしなかったのが父さんにはバレていたのだろうか。そう言われてしまった。
「優にはカツ丼でも作ってもらうかな」
「いや、いきなりハードル高過ぎだろ!?」
いきなり揚げ物とか無理だろ!
「穂花ちゃんに教えてもらってこい」
「あ……」
なるほど……
おれには料理の師匠がいるじゃないか。
それに穂花と仲睦まじく料理をするなんて……いいね。
「なんだこいつ。いきなりにやけてきたぞ。マジキモいな」
「いや、ひどくね!?」
実の息子にそこまで言うことはないだろうよ……
「事実だから、仕方ない。なあ、正樹?」
父さんは兄貴に話を振った。
さすがに兄貴はおれのことを悪く言ったりはしないだろ……
「あ、ああ……悪い。優。本当にキモかった……」
言いながら、兄貴は顔を引きつらせていた。
「って兄貴もかよ!?」
どんだけキモい顔してたんだよ、おれ……
いや、それならなんか申し訳ない感じになるわ……
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