美女と野獣

 二時限目の古典の授業が終わった。

 次の授業は体育で、今日からは水泳をすることになっている。

 屋内プールでの授業なので、更衣室までの移動中、男子共は色めき立っていた。

 それもそのはず。

 何故なら、いつもの体育と違って、水泳は男女合同で行われる。

 つまり、女子の水着姿が拝めるわけだ。


 そして、その男子のほとんどは穂花の水着姿を拝むことが目的だろう。


 おれも男子として、その気持ちは理解できる。穂花のあのスタイルを間近で見ることができたら、どれほど最高か。

 眼福と言ってもいいほどだ。


 しかし、それがお互い様だと気付くのは、すぐ後のことだった。













 ♦︎












「優君……はぁはぁ、優君はどこだ……」


 更衣室を出ると、そこには野獣がいた。

 口の辺りがかなり濡れている。

 あれは水なのか、よだれなのか。

 できれば水だと思いたい。むしろ、そう思わせてくれ。

 野獣……もとい、穂花はスク水に身を包み、手をワキワキさせながら、プールの中を徘徊していた。

 やばい。今、見つかったら、確実にヤられる。


 思えば、この関係になってから、穂花に水着姿を見せるのは初めてだったか。

 中学の頃は水泳の授業がなかったし、高校一年の頃はこのプールが新設されるとかで、工事中の影響で水泳の授業がなかったし。

 というか、普通、逆だよな。

 男子が女子の水着姿見たいってなるはずなのに。


「あ、優君……いた……」


 おれを見つけた穂花は、じゅるりと、ねちっとした舌舐めずりをしてから、こちらにゆっくりと近づいてきた。

 Oh,My God……


「はぁ、優君の胸板……たくましい……」


 そして、おれに抱きついてきた穂花は、ゆっくりとおれの胸に指を這わせていく。

 な、なんかすごいイケナイコトしてる気分なんですけど……

 それに穂花の柔らかい肌がダイレクトに感じられて、色々とやばい……

 おれは全身を硬直させながら、そう思った。


 そして周りの、特に男子のクラスメイトからの殺気がすぐさま飛んできて、おれのレッドアラームがけたたましく鳴り響くのを感じた。


「ほ、穂花……気持ちはわかるけど、こういうのはその、プライベートの時にやらないか……?」


「ヤるの……?」


「いや、そのヤるじゃなくて……」


「え、ヤらないの……?」


 っておい、やめろ!なんだこの会話!!

 そんな期待を込めた眼差しを向けるな!!

 もうどっかから、チェーン持ってきたクラスメイトとかいるんだぞ!

 完全に締める気だよ!

 てか、先生止めてくれよ!


「と、とにかく!もう授業も始まるし、この辺にしておいてくれないか……?」


 頼むから。おれの身のためにも。


「うん……優君がそういうなら……」


 そうして、名残惜しそうに穂花は離れていった。

 助かった。色んな意味で。


「その代わり、今度二人でプール行こうね……」


「あ、ああ……」


 返事をしつつ、思う。

 学校だけじゃなく、公共のプールでもこんなことやれたら、なんかもう大変なことになるのが、目に見えているな……


 その後、おれはやたら男子共にプール内で水をかけられまくった。

 むしろ、ビート板を使い、水中内で機会を伺っている奴もいた。

 人間って怖い……


 おれはたまらず、そう思うのだった。

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