虫けら

 穂花と通学路を歩き、交差点の前までやってきた。

 この交差点を渡れば、学校はもうすぐそばである。


「相変わらず、見てるこっちが恥ずかしくなる組み合わせだな」


 おれ達が信号待ちをしていると、そんな言葉が横から聞こえてきた。


「もう慣れただろ?」


 おれは声が聞こえてきた方に顔を向け、そう言う。


「見慣れたが、恥ずかしいという気持ちまでは慣れないな」


 言って、苦笑する。


 声をかけてきたのはクラスメイトの新堂しんどう みつる

 どこか幼さの残る整った顔立ちで、十分にイケメンだと言える奴だ。

 しかし、どこか惜しい奴なのである。

 というのも、勉強が得意なわけでもなく、しかし不得意というわけでなく、成績はいつも真ん中の少し下辺り。

 運動も全くできないわけではないが、得意というわけでもない。簡単にいえば、中途半端な奴なのである。

 だが、性格は至って良い奴。

 クラスメイトの中でも一番仲が良いと言ってもいいくらいだ。


「おれも早くそんな彼女がほしいよ」


 言いながら、明後日の方角を向く満。

 顔はいいのに、彼女ができたことがないらしい。かなり意外である。

 普通に友達として付き合っていれば、好きになる女子は絶対にいると思うんだけどな。


「まぁ、お前にもいずれ出来るさ」


 おれは肩をポンと叩いた。


「くっ、上から目線で言いやがって……」


 満は悔しそうに舌打ちをする。


「ねぇ、優君。さっきから誰と話してるの?」


 すると、穂花がそんなことを言ってきた。


「え、穂花ちゃんはおれのこと、見えてないの?!こんな、そばにいるのに!?」


「悪い。穂花はおれ以外の生き物は虫けらにしか見えてないらしい」


「めちゃくちゃひどいな、それ!?」


 満のツッコミが辺りに虚しく響くのだった。














 ♦︎












 穂花と虫けら……じゃなかった、満と共に学校へと向かい、校門前に差し掛かった時のことだった。


「あれ、なんかやってるな」


 校門の前で何やら、人だかりができていた。


「これは校則違反なので没収します」


 すると、そんな声が聞こえてきた。


「ああ、風紀委員の抜き打ちのチェックじゃないか?」


「ああ、なるほどな」


 一ヶ月に一回くらい行われるやつか。

 まぁ、違反するようなものは持ってきてないから別に構わないか。


 そう思いながら、おれ達は校門前へと近づいた。

 すると、一人の風紀委員の女の子がおれ達、厳密に言えば、おれと穂花のことをしきりにジロジロと見てきた。

 なんなんだ……?


「あの」


 おれが少し眉を潜めていると、その女の子は話しかけてきた。

 メガネをかけ、綺麗な顔をしているが、少し目がきつい。最も、そういう趣味がある奴には大好物だと思うが。


「何ですか?」


「人前でベタベタとイチャついて恥ずかしくないんですか?」


 女の子はストレートにそう聞いてきた。


「悪いけど、こうしないとこいつが死んじゃうので」


「はっ……?」


 理解できないと言った様子で声を上げる。

 こっちとしては、本当のことを言っただけなんだけどな。これ以上、説明のしようがないし。

 しばし、お互いに睨み合う形になっていると、おれ達のやりとりを聞いていた他の風紀委員が何やら、その女の子に耳打ちをしてきた。


 そして、耳打ちが終わると。


「……」


 無言で脇にズレた。

 しかし、不服そうな顔をしている。

 理解できないという感じだ。

 気持ちはわかるが、これも穂花のためなんだ。

 それに今までこうしていて、呼び止められた事は一度もない。

 イチャついてる奴なら、他にだってきっといるだろうし。


「見ない顔だったね」


 校門を通り過ぎると、穂花がそう声をかけてきた。


「ああ、そうだな」


 敬語だったし、一年なのかな……?

 おれは少し気になったが、あまり気にしないように努めるのだった。

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