携帯、そこ代われ
穂花とバイバイした後、おれは真っ直ぐ家に向かう。まぁ、健全な男子高校生なら、当たり前だよね。
そして歩くこと五分、家の前に到着。
おれはポケットに入れていたカギで玄関を開け、中に入り、靴を揃えると、そのまま玄関横にある階段で二階にある自分の部屋へと上がった。
部屋に入り、ベッドの上に着いたタイミングでポケットに入っている携帯が震える。
うん、やっぱり予想通り。
そう思いながら、おれはポケットから携帯を取り出す。
画面には穂花の名前が。
今日もビデオ通話のようだな。
しかし、なんで毎回、こんなタイミングよく電話が来るのか。
どこかに盗聴器や盗撮機でも仕込んでるんじゃないかと思ってしまうほどだ。
おれは画面をスワイプすると、そこには部屋着に着替えた穂花が映っていた。
Tシャツにハーフパンツだと……
穂花の透き通るような白い肌が前面に広がっていて、目に毒としか言いようがなかった。
しかし、目を離すつもりはない。
今、この光景を全力で拝んでやる。
「あ、優君!会いたかったよー!」
画面におれが映った瞬間、穂花は携帯を抱きしめだした。
多分、穂花の携帯は今、穂花の胸の辺りにいる。
おい、携帯。おれと場所代われ。
たまらず、そんなことを思ってしまう。
「私ね、すっごく寂しかったの……」
「五分前に会ってたけどな」
「五年くらいの気分だったよ……」
「どうやら、おれとお前じゃ、時間の流れ方が違うようだな」
どこかのSF映画の設定みたいだな。
「喋りたい気持ちも分かるが、今日は宿題が沢山出たから、まずはそれを片付けてからにしないか?」
「ん、そうだね……」
穂花はおれの言葉に少し不満そうだったが、頷いた。
まぁ穂花の頭脳なら、学校の宿題なんて、あっという間に片付けてしまう。
最も、おれが近くにいればの話しだが。
「あ、じゃあ、このまま繋げっぱなしにするからさ、分からないところが出たら、聞いてもいいか?」
「え、あ、うん!もちろん!」
穂花は瞬間、満面の笑みになる。
やべぇ、めちゃかわいい、この子。
表情、コロコロ変わるし。
「よし、じゃあ、やるか」
そうして、おれは携帯を専用のスタンドに立て、穂花とビデオ通話を繋ぎっぱなしにしながら、カバンからノートと教科書を取り出すと、机に向かう。
「っと、そのままに着替えてくるよ」
おれは未だに制服のままだったことに気づいた。
「優君の生着替え!?」
すると、穂花は何を勘違いしたのか、途端にテンションを爆発させる。
なんか部屋の中でドタドタ騒いでる。
迷惑だから、やめなさい。
「この場では着替えないって。下で着替えてくる」
「えー……最低……」
「中々、辛辣な言葉だな」
着替えないだけで、ここまで言われるっておれくらいじゃない?
「とにかく、着替えてくるから」
そう言って、おれは着替えを手に取ると、下に降りた。
そして、脱衣所で着替えを済ませ、すぐさま部屋に戻ってきた。
「お待たせ……って……」
携帯に映っている穂花は何やら、草のようなものをいじっている。
いや、あれは草じゃない。ワラだ。
こいつ、ワラ人形作ろうとしてやがる。
どこからワラなんて持ってきたんだよ。
「ふふ、優君……楽しみだね……」
言いながら、怪しい笑みを浮かべている穂花。
おい、こっちに帰ってこい。
「バカなことやってないで始めるぞ」
「え、あ、優君!?あ、ううん、何もしてないよ!まだ刺してないから」
「何を刺すつもりだったのかは、敢えて聞かないことにしておくよ」
聞いたら、なんか身体が痛くなりそうだし。
そんなやりとりの後、おれ達はようやく、宿題を始めていくのだった。
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