付き合うとか
かったるい授業も終わり、放課後。
「優君!帰ろ!」
おれが机にかかっていたカバンを手に取ると、既に帰り支度を済ませた穂花が二つ右隣の席から、こちらにやってきて話しかけてきた。
「ああ、そうだな」
おれは二つ返事をした後、席を立つ。と、同時に穂花はおれの腕を掴んで、自分の胸に抱き寄せてくる。
うん、いつも通り。
おれの腕には穂花の柔らかいソレが当たってくる。思春期の男子として、何も感じないわけではない。むしろ、ちょっと嬉しい。
そして、同時に周りの男子からの舌打ちと殺気がおれを襲ってくる。うん、これもいつも通り。あ、なんかバットを手に持ってる奴がいる。これは初。
身の危険を感じつつ、その状態のまま、教室を出、階段を降り、下駄箱に靴に履き替えると、学校を出る。
「そろそろ、暑くなってきたな」
梅雨の時期も終わり、厳しい日差しが照りつけてくる。
おれは額に浮かんだ汗を服の袖で拭う。
「優君の汗のエキス……ステキ……」
それを見ていた穂花はうっとりとした顔を浮かべていた。
そこには変態しかいなかった。
しかし、周りから見れば超絶美少女が平凡な男子とイチャイチャ下校をしている風景である。現にすれ違う人からは、必ずと言っていいほど、こちらに注目してくる。
周りの目を惹くのも、当然であった。
「それよりさ、夏休みはどこに行く?海?それともキャンプでもする?あ、花火もいいかな」
「いつのまにか、一緒にどこかに行く展開になっているな」
そんな約束してないのに。
「えー?せっかくの夏休みなんだよ?しかも、こんな美少女がそばにいるんだよ?どこかも行かないなんて、選択肢ないでしょ」
穂花は不満そうに頬を膨らませた。
「美少女って、自覚あったんだ」
まぁ、本当のことだから、否定はしないけどさ。
「まぁ、まだ時間はあるし、どこかに行くとしても、ゆっくり決めていこうぜ」
言いながら、おれ達は交差点に差し掛かった。
この交差点を渡れば、おれ達は別々の道を行くことになる。
「ねぇ、優君……」
穂花は甘えた声でおれの名前を呼んでくる。
この声を出すのも、いつも通りのことだ。
「わかってるって。家の前まで行くよ」
「ううん……よかったらさ、少し私の部屋で休んで行かない……?」
そうして、腕を抱きしめている力を少し強くする。
「え……」
しかし、穂花から予想外の言葉が出てきて、おれは固まってしまった。
それって、つまり、そういう……
「ふふ、優君、ドキドキしちゃってるね。本気にしちゃった?」
そう言って、穂花はいじわるな笑みを浮かべる。
「か、からかうなよ……」
おれは恥ずかしくなり、たまらず、そっぽを向いた。
こいつ、たまにこういう小悪魔なところ出してくるんだよな……
それがまた良いのなんのって……何いってんだ、おれは……
「でも、家の前までは来てね……?」
「わかってるって……」
そんなやりとりを交えつつ、おれ達は穂花の家の前まで行くのだった。
ちなみにここで言っておきたいのだが、おれ達は付き合ってはいない。
どちらからか、告白した記憶もない。
しばらくこんな関係が続いているので、そういう感覚が麻痺してきた気がする。
だって、恋人並みのイチャイチャを平気でしているからだ。
穂花の変態な部分は少し、というか、かなり頭を悩ませるが、それ以外は最高だし、穂花のことは好きだ。
しかし、今更変に告白して、ギクシャクした関係になるのも、嫌なので、告白をするつもりはない。
こんなことを言えば、ヘタレ発言になるかもしれないが、まぁ多めに見てほしい。
「あ、優君、忘れ物だよ」
「え?」
踵を返したおれに穂花は駆け寄ると、その柔らかい唇をおれの唇に当ててきた。
「ん……」
唇を当てた瞬間、穂花から喘ぐような声が。
や、やめろよ、まじで……
意識しちゃうだろ……
「はい、忘れ物届けましたー」
そして、ゆっくりと穂花は離れていった。
「今度から忘れちゃダメだよ?」
「あ、ああ……」
突然のことにおれは頭がクラクラしていた。
1週間くらい前から、やり始めたんだっけ……
相変わらず、これには慣れないな……
「じゃあ、後でね」
穂花は満面の笑みで、去っていくおれに向かって手を振ってくれる。
付き合ってないけど……もうこれは付き合ってるって言っても、過言ではないよな。
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