26話
しばらく笑い合い、淹れた紅茶が冷め始めた頃、ようやく落ち着きは取り戻された。
いや、俺の方は落ち着いたがホム子の方はまだのようだ。
今も時折ネガを眺めては噴き出している。
「……」
そんな様子を眺めながら、俺は席を立った。
「──んじゃ、行ってくるわ。ここまで間違ってないんだったら後も正解だろ」
「ああ、行ってらっしゃい。……だがその前に一応聞いておくとしよう。決まりきった回答が来ることを期待しながら聞いておくとするよ。行先を伝えず何処かへ行こうとする人には、様式として必要だからね。……行くとは一体何処へだい?」
そんなもの決まってんだろ。俺は彼女の様式に付き合って答えた。
面倒臭いと思いつつ、俺は自身の納得のために行くべき居場所を伝えた。
「……ラスボスだよ。……面倒臭せえけどな」
~~~~~
「と、いうのが今回の事件です。これどうぞ」
「どうもどうも。いやぁ~、悪いね、和田君」
所変わって教務室。俺は今回の事件を軽くまとめた紙束を放り投げつつ、文句を口にした。
「そもそも何で俺がこんなことしなきゃいけないんですかね……」
「成り行きとはいえ最後の最後に関わってしまったからね。五条さんはあまり大ごとにする気はないそうだし、私だって望んでいない。でも処分はしなきゃいけない。だからこうして取り敢えずの全貌ぐらいは知っておかなきゃ駄目でしょ?」
「それは分かってます。そうではなく、何で俺なんですか、って質問ですよ」
ああ、と。森秋先生は頷く。
「ホームズはこの手の作業をしたがらない。五条さんは被害者。なら全容を知っていてこき使える候補は君しかいないじゃない?」
「こき使うって……。教師としてどうなんすか、それ」
「信頼してるんです。君ならちゃんと仕事をしてくれるって」
「ガキに任せるもんじゃないでしょ、こんなの……」
「自分のことをガキだと言えるガキは、それだけで貴重なものなんだよ。君の場合はそこに敢えて甘えようとするズル賢さが見えるんだけどね」
「持ちうる権利を行使することは賢さであってもズルとは違うんじゃないですかね」
「行使している自覚を持ちながら無知を演じるのはズル以外の何物でもないと、私はそう思うかな。……まあオッケー。では、あまり遅くなる前に帰ってね。私もさっさと鍵をかけて帰りたいし」
怠そうに欠伸をする教師を見た俺は、何となく人間不信になる人の気持ちというものが分かったような気がした。
「……自覚を持ちながら無知を演じる、ですか……」
教師のありがたい言葉を口の中で転がす。成程。それは確かにズルい行為だ。
……事実、目前とした俺はあまり良い気がしないの。
だから言う。だから口にする。だから込める。
……自覚を持った悪意を。
「……そういえばもう一人、事件の全部を知っている人がいましたね。その人に任せるべきでした」
「ん? そんな人いたっけ? 光石さんは駄目ですよ。一応犯人なわけだし」
違う。そうじゃない。
俺は否定をし、その無知を黙らせる。
「────貴方なら全部書けたんじゃないですか……森秋先生?」
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