最終章 23話
「────と、いうわけで。正規の処分は無いそうだよ、光石君の件に関してはね」
パソコンで慣れないタイピングをしていた俺に、ホム子はその後の顛末を語ってくれた。
あれから二日。幸いなことに事件など起きることは無く俺はこうしてゆったりと時を過ごせていた。
……いや、本当はこの作業自体別にゆったりしていないんだけど。
俺はタイピングの手を止めて紅茶を飲む。
「そうかよ。まあ、あの終わり方だ。手帳が盗まれたことを証明するには自分のものだってことを証明するしかないし、そのためには中身を晒さなければいけない、ってなれば……」
「あまり褒められた方法で集めた情報じゃないからね。教師立会いで確認するわけにいかない以上『盗まれた』という事実を消し去り無関係を装うことが最適解だろう」
となれば必然、犯人である光石は無罪放免にするしかないということだ。
「森秋先生も五条も互いに所有者を知った上でやってるんだろ? 結局、最後まで茶番劇だったってわけか」
「建前だけで会話を成立させようとしているからそうなるのだね。傍目には茶番にしか見えないが、それが大人というものだ」
「アホらしい。無知な振りして本音を言えば一発だろ」
「それが出来ないのが大人、なのだよ。いや? 大人になろうとしている子供と呼ぶべきだろうか。……君のような方法を取れる者こそが本当の大人なのかもね」
どっちだっていいことだ。頭の良い奴らの会話など理解出来ないし、する気もない。
雁字搦めになっているというのなら勝手に固まっていればいい。
「そんなことより一ついいか?」
「? 頼みごとかい? 君からとは珍しい。何かな?」
まあそんなもんだ、と言い、最後の文字を打ち込んだ俺は顔を上げる。
そうして今まで語っていたホム子に対しある願いを口にした。
「──答え合わせ、してもいいか?」
「…………」
聞き、少しばかり間が空く。
「答え合わせ……か。一体どこに関してかな?」
「色々聞きたいことはあるが、一番はやっぱ光石望の目的であり、五条玲奈の負い目だ」
実はこの二件に関してホム子はあの場で推理を披露することはなかった。
だからこそ今誰もいないこの場で聞こうと思ったのだ。
「……光石君の目的。それをこのタイミングで何だったのかと問う辺り君だってある程度の想定はしているのだろう?」
「だから答え合わせだよ。生憎、赤点ギリギリな推理力しか持ち合わせていないんでな」
「成程。それで百二十点の私に添削を頼みたい、と。納得出来る理由と人選だ」
「お前はいちいち自慢をしなきゃ死ぬ病気にでもかかってんのか?」
「自慢ではない。事実だよ」
どうでもいい。
俺はそう吐き捨てて事件を思い出した。
「手帳を盗む。それが目的なら光石が放課後あの時間まで残っている意味が無いんだよ。わざわざ最終下校時間ギリギリまで、な。それに手帳が開かれた形跡も無いと五条は言っていた。ならばその目的が他にあると考えるのが自然になる」
「……続けたまえ」
「次に気になったのは……アレだ」
俺は目線を横にやる。棚に置かれた古めかしい一眼レフカメラ。あのとき俺が光石から借り受けて写真を撮ったものだ。
「お前の真似ってわけじゃないが……影響なのかね。何かと細かいところまで目をやるようになったもんだよ。……嬉しくはないが気になることを一つ思い出した。光石が所持していたカメラは先日の密着取材のときにはただのデジカメだった。だがあの日だけはこの一眼レフになっていた。……考えすぎかとも思ったが、多分理由があったんだろうな」
俺は考える。デジカメから一眼レフへと替えた意味を。そこにある機能の差とは何か。
「随分古い型だよな、これ。写真撮影以外の機能は付いてないし、現代っ子じゃ扱いづらいフィルムを使うタイプだ。実際型番とか調べてみたが骨董品とも呼べる代物だったぞ」
「それが一体?」
「意味が無いってことがまず引っかかった。わざわざこんな古めかしいものに替える意味がな。……いや、こういった物が好きだって人や良い写真を撮るために必要だって意見は写真に詳しくない俺だって知ってる。だがあの場でこれが必要だったのか、って考えれば、それは否だ」
冷静に考えればそうだ。あんな重く目立つ物を持ち歩いて悪事を働こうなどと思わないだろう。俺ならしない。
だが現実はそうなのだ。光石望は実際としてカメラを持っていた。持ち替えていた。
ならばそこには意味があるのだ。
「光石はあの場でカメラを持ち歩く必要があった。それが結論だ。後はそこに行きつく理由を逆算すればいい。使う必要があった? そうじゃない。何かの撮影をするならば携帯でもデジカメでも何でもいいはずだからな。だったら考えられる理由は一つだ。……あの一眼レフカメラこそが光石の本当の目的なんじゃないか?」
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