16話
謎解きに入りますが、もし分からない点・不明瞭な点・矛盾点等見つけましたらお気軽に連絡ください
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「結論から言おう。今回の事件、犯人は光石望女史。君だね?」
「⁉ ……私、ですか?」
あまりに早急なホム子の開幕発言。驚いたのは犯人扱いされた光石だけじゃなく俺や、他にも……
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! どう考えても犯人はあの三人の誰かでしょ⁉ なんでこの子が犯人になってるのよ⁉」
「まあ待ちたまえ。勿論説明するさ。全員が納得する理由をね。その前にまず確認を取ろう。いいかね? 先に言っておこう。私はもう既に全てを知った。その上で君にこう言おう。……私は君を尊敬するよ。そして私は自分をこう言おう。私は尊敬に対し誠意で返す、と。君の想いは無駄にならないと。どうだい? 謎解きを始めてもいいかな?」
「……何を言っているか分からないが、構いません。一記者として貴方がどのような思考をするのか非常に気になります。お話を聞かせてくれませんか?」
良いだろう! ホム子は勢いよく身を振るった。
ここからは彼女のオンステージ。集めた根拠を積み重ね、構築された論理を披露する彼女の独壇場だ。
そんなホム子を、光石は逸らすことなく目を向ける。真剣な、全てを受け止める覚悟を持った目だ。
それを確認して言う。
「まず解き明かさなければいけないのは例の証言だね。これは非常に面倒だった。仕掛け自体は単純だが、ある一つのアクシデントを含んだためにそれを見抜くのに苦労したよ。進一君」
「あ?」
「君の推論は惜しかった。その惜しかった理由は憶えているかね?」
確か……
「五条の忠告。誰一人として嘘を言っていないって、それを無視したからだったな」
「はぁ⁉ 私の情報が信用出来ないって言うの⁉」
「しょうがないだろうが。むしろどうやってあんな滅茶苦茶な証言を本当だって信じればいいんだよ⁉」
「だがね、進一君。あるのだよ。一つだけ、全員の証言に嘘が無いという有り得ない矛盾が成立する現実が。単純なことだ。今の君ならもしかしたら分かるかな?」
言われて、俺は頭を掻く。ホム子の言う通り俺にはもう当たりをつけていた。
「……勘違い、だな」
俺は一つの可能性を口にした。あれからずっと心の片隅で考えていた末に導き出した、全ての実現を両立させる可能性だ。
「五条玲奈に嘘は通じない。彼らが嘘を言っていないのが本当だとしたら、残されている可能性はそれだけだ」
「良く分かんないんすけど、それって何の違いがあるんすか? 結局証言は間違ってたってことなんすよね?」
「別物だ。まったくのな。五条の特技である嘘を見抜く観察というのはつまり、嘘を言った人間の動揺だったり慌てようを見透かす技術だ。言ったことが事実であるかどうかを判断する超能力じゃない。そして重要なのは嘘を言わない、というのはイコール事実を言っているという意味じゃないってことだ。そうだろ?」
問われた五条は悔しそうに額を打つ。
「ああ! そういうことね! ええ、そうね。ああ、最悪! そんなことすら見過ごしていたなんて……!」
頭を抱えて後悔する五条。どうやら彼女も俺とホム子が言ったことの意味に気付いたようだ。
「言う通りだ。証言者の三人。その内の二人は今回起きた事件においてある勘違いをしていた。正確には勘違いさせられていた、と言うべきだね。これから説明するが、最も正しい証言をしていたのは第二証言者・鈴木だということは憶えておいて欲しい。まずは最初の矛盾。第一・第二証言者の入れ違いに対する認識の齟齬と、面談者の有無だ」
いいかい? ホム子は前置きをして続けた。
「大切な事実は三つだ。一つ。彼らは入学間もない新入生であること。一つ。部活を得ていたのは第二証言者だけだということ。一つ。この教室さ。見たまえ。この教室は随分と広いだろ? 構造は二室の壁をぶち抜いた大部屋となっている。そして……」
彼女は突如歩き出し、部屋の中央へと移動した。壁際まで行くと、そこに伝わるレールを撫でながら、俺達を振り向いた。
「それは……仕切り板!」
五条が気付き、立ち上がる。そうしてホム子は壁際にて折り畳まれた構造物を手にし、そのまま引きずる形で引っ張り出す。ギィ、という軋んだ金属音を響かせたソレはゆっくりゆっくりと開かれていき、とうとう一直線にこの大部屋を両断した。
「そう、仕切り板。こういった大部屋では比較的良く見られる構造だね。薄い、折り畳み式の仕切り板を伸ばせば……ほら、どうだい? この部屋は一転して標準的な大きさへと変わる。光石君は昼休み、これをすることによって証言者の認識をずらしたのだよ」
一体どういうことか。そんな疑問を挟む間の無い程ホム子の弁舌は滑らかだ。
「一般的に入れ違うという表現は多くの場面で使われるね。では今回のように、時間的な視点ではなく物理的な視点で物を考えて欲しい。同一の部屋に対する入室・退室で入れ違う。この場合わざわざ同じドアを使う必要性はあるかい? 特に、学校教室のように前後にドアが取り付けられている場合だ」
「別に……。前と後ろの方のドアで同時にくぐっても入れ違うって表現は使うんじゃないすか? あ、いや、自分馬鹿なんで良く分かんないっすけど」
「そう自分を卑下するな、飛鳥君。君の言う通りだ。同じ部屋を介して互いの入退室を認識した者ならば、そういった表現をするのはごく普通のことになる。だから第二証言者は入れ違ったと証言した」
「……じゃあ最初にいた佐藤は? もしそうなら彼だってそう言うはずじゃない⁉」
「ああ、そうだね。だがそれは彼がこの部屋が、この二つ連なった部屋が同一の部屋であることを正しく認識していた場合の話だ。いいかい? 彼は入学して間もない新入生だ。果たしてそんなことを知っていたと思うかい? 何かしらの用事がなければ風紀委員室なんて場所、来たりはしないだろう」
「……‼ そうか。それでお前は部室のことを……」
「ザッツライト。そうだよ。その通りだ。第二証言者・鈴木はこの三人の中で唯一の部室所持の生徒であり、部長だ。そして部室などの権利関係手続きを行うのは……どの団体だったかな?」
「……私達、風紀委員よ」
「だろう? だから私は予測していたのだよ。当たりをつけていたんだ。彼だけはこの風紀委員室の構造を知っていた。一度来訪したことがあるからだ。この時期このタイミング。興味本位で探検をするにも室内まで入るだろうか? ならば残された可能性は一つだ。部室手続きのために来たことがある。だから彼は入れ違ったと言えたのだよ!」
佐藤は無人の部屋から出る。それは仕切り板が引かれた、普段より半分の広さしかない風紀委員室だった。そこから出た彼を廊下から見ていた鈴木は、続いて入る。
この時だ。両者の認識に差が生まれるのは。
佐藤は例え鈴木が教室に入るのを認識していたとしても、彼が入った場面を見ていたとしても、それが風紀委員室への入室だという風に認識したりはしないのだ。
教室一つ分離れた隣の部屋に入っていった赤の他人としか認識出来ない。
一方の鈴木ははっきりと知っている。彼が出て来た教室は、一つ分離れた教室は、二部屋分ある風紀委員室であるということを。
つまり自分とは入れ違って行ったという風にはっきりと認識出来たのだ。
後は簡単だ。
仕切った二つの部屋。その内佐藤が一人で待機していた方とは違う部屋に光石は待機する。
そうすることによって同じ部屋でありながら面談をしたと言う者と誰もいなかったと言う者。
その二者の誕生を成立させられるトリックが出来上がるのだ。
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