第3話ディスペル
お茶会の一件以降、マインが引きこもることはなくなった。
それどころか、マインはやたら俺に甘えてくるようになった。
まぁ、よくわからないが妹に甘えられるのは嬉しいものだ。
「お兄様、今日も鍛錬ですか?」
「まぁね。俺には魔力がないから身体を鍛えないと」
俺は毎日鍛えている。前世では空手を習っていた。
ちなみにマインはというと、魔力の量がケタ違いだった。
どうやら、並外れた魔力の才能がある人はごく稀に黒髪で生まれてくるらしい。
父はそんなマインの才能に目をつけて養子にしたようだ。
「アレク様!今日も勉強を教えてほしいのだけど」
レオナがやってきたようだ。
「レオナ様、この所お兄様に頼りすぎではありませんか?今日はお兄様は鍛錬でお忙しいのです」
「あら、マインこそアレク様にくっつきすぎじゃないの?そんなに妹にまとわりつかれたら邪魔にしかならないんじゃないかしら?」
ここ最近、レオナとマインもすっかり仲良くなったようで良かった。
「あ、そういえばレオナに頼みたいことがあったんだ」
「はい、なにかしらアレク様?」
「ここじゃあれだから一緒に庭にきて」
そして俺達は庭に出てきた。
「このぐらいの距離でいいか。レオナはここに立ってて」
レオナを立たせ、俺は10mくらい離れる。
「それで、私は何をしたらいいの?」
「そこから俺に向けて水魔法を放ってほしいんだ」
「えっ!?でもそんなことをしたら・・・」
「大丈夫だからやってみて」
「うん・・・わかったわ。もう濡れちゃっても知らないわよ?」
レオナはそう言うと俺に向けて手を突き出す。
そしてレオナが魔力を込めると水球が現れた。
俺は水球に向けて手を突き出す。
すると、水球は消えてしまった。
「えっ?アレク様、今何を・・・?」
レオナが驚きの表情になる。
そばで見ていたマインも同じだ。
「今のがディスペルだよ。レオナの発動した魔法式を分解して魔法を無効化したんだ」
「魔法を分解・・・そんなことが!?」
「さすがはお兄様です!」
他人の発動した魔法式を即座に解析し、数式を組み替えることができる魔法。
魔力のない俺が唯一使えるようになった魔法だ。
これを極めればチート主人公に対抗することができる。
同時に、俺は魔導具開発にも手を出すことにした。
以前レオナと買い物に行った際、購入した火を付ける魔導具。
ライターみたいなものだ。これを調べることにより、道具に魔法式のルーンを刻み魔導具にする仕組みを理解した。
そしてある試作品を完成させることができた。
木でできた一枚の板。
「お兄様、これは何ですか?」
「ただの板にしか見えないのだけど」
マインとレオナが不思議そうに眺める。
「これは俺が作った魔導具だよ」
「お兄様が作った魔導具!?」
「で、アレク様、これはどうやって使うの?」
レオナが板を手に取る。
「その板に魔力を込めてみて?」
俺がそう言うと、言われた通りにレオナが魔力を込める。
すると、板に刻まれた溝が光りだした。
「その板に魔力を込めると、刻まれた溝に魔力が流れて溝の中を回るんだ」
「へえー、それからどうなるの?」
レオナがわくわくした表情で板を見つめている。
「それだけだよ」
「え・・・?」
「溝の中を魔力が流れて回るだけ。で、魔力が切れたらおしまい」
俺が説明するとレオナはひどくがっかりした顔になった。
「もー、何よそれ!期待して損したわ」
まぁただの試作品だしね。これを作るだけでも随分苦労したんだけど。
「さすがはお兄様です!ご自分で魔導具を作るなんて」
ああ、マイン。なんていい子なんだ!
しかし、この魔導具作りが俺の人生を大きく変えることになるのだった。
転生したことで始まった異世界生活。貴族の子息ということで何不自由ない生活をしているのだが、ひとつだけ不満があった。
それは食事だ。
貴族飯はさぞ美味しいかと思いきや、全然美味しくないのだ。
材料は高級だけど、味付けがなっていない。
全体的に薄味なのだ。
特にスープなど素材の旨味を全く感じられない。
我慢の限界にきた俺はついに厨房へと乗り込んだ。
「アレク様、いったいどうなさったのですか!?」
ノイマン家のシェフが驚いていた。
それはそうだろう。貴族は自分で料理などしない。それが厨房に入ってきたのだから。
「まぁ、ちょっと厨房を貸してください。悪いようにはしませんから」
「はぁ、かしこまりました」
俺は棚からいくつか食材を取り出す。
まずは、ボールに卵黄・酢・塩を入れて泡立て器でよく混ぜる。
そこへ、油を少しずつ混ぜながら入れていく。
しばらく混ぜていくと、白くもったりとしてきた。
「よし、これで完成だ!」
そして、俺はシェフに声をかけると、一つの注文をした。
夕食の時間。いつものように食堂に家族がそろう。
そして夕食が出てくる。
父がスープに口をつけると、ひどく驚いた表情を見せた。
「ちょっと!ディークを呼びなさい」
父がメイドに声をかけた。
ディークとはノイマン家のシェフの名前だ。
「旦那様、どうなさいましたか?」
ディークがやってきた。
「このスープは君が作ったのか?」
「は、はい。お気に召しませんでしたでしょうか?」
ディークは怯えていた。
「とんでもない!こんなに美味なスープは生まれて初めてだ。一体これは・・」
「は、はい。アレク様の申し付けの通りに作らせていただきました。野菜を下茹でした湯を捨てずにそのままアクを取りながら煮込み、色が変わるまでゆっくりと炒めた玉ねぎを加えるようにと申されまして」
「なんだって?アレクがそんなことを・・・」
父が俺の方を見る。
「お父様、すみません勝手なことをしてしまい」
俺は頭を下げる。
「別に謝ることはないよ。むしろすごいじゃないか。こんなスープはたぶん王宮のシェフだって作らないぞ」
「ありがとうございますお父様」
「さすがはお兄様です!ところで先程からお兄様が料理につけているその白いクリームはなんですか?」
「これはマヨネーズだよ。つけてみるかい?」
「まよねーず・・・?」
マインは不思議そうにマヨネーズを味の薄い白身魚の料理につけて口に運ぶ。
「これは!?こんなの初めて食べます!とても魚に合いますね。すごく美味しいです」
マインにつられて両親もマヨネーズをつけて食べるとあまりの美味しさに驚いていた。
これで俺の食生活も少しはマシになったかな。
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