第2話新しい家族

 俺とレオナが買い物にでかけたあの日からレオナの態度が180度変わってしまった。

あれからレオナは頻繁に屋敷を訪れるようになっていた。

「アレク様、この魔法式なのですけど・・・」

俺はレオナと一緒に魔法の勉強をしていた。

「ああ、これはこのルーンの数式をこう組み立てて・・・」

「なるほど、よくわかったわ。さすがはアレク様ね」

なんか、呼び方も様づけになっちゃってるし一体どうしたんだ?

そして、レオナはそれは熱心に質問してくる。よほど魔法の勉強が楽しくなってきたのだろう。

こうして魔法の勉強をしているが、実は俺には魔法の才能が全く無いことに気が付いてしまった。

俺の魔力は普通の人よりかなり劣っていたのだ。

レオナが魔法でサッカーボールほどの水球を出したのに対し、俺のはピンポン玉程度だった。

しかし、魔法式の勉強をしていくうちに俺は魔力がない俺にでも使える、しかも俺にしか使えない魔法を編み出すことに成功したのだった。


 そしてある日のこと。俺の父であるノイマン伯爵が一人の少女を連れてきた。

彼女は長い黒髪に黒い瞳の美少女だった。

西洋風のこの世界では黒髪なんて珍しい。

見た目は完全に日本人の女の子だ。

「この子はマイン。遠い親戚なんだが訳あって今日から我が家で一緒に暮らすことになった」

なんだってーーっ!!

マイン・ノイマン。たしかアレクの妹という設定で、意地悪な兄にいじめられて育ち、まるで召使いのような扱いをされてきたキャラだ。そんなマインを兄から助け出したのが主人公だ。

そうか、マインはアレクの実の妹じゃなかったのか。

「あの・・・、マインです。よろしくお願いいたしますアレク様・・・」

マインはおどおどしながら挨拶した。

「よろしく。今日から一緒に暮らす家族なんだからそんな堅苦しい呼び方はないかな」

「は、はい。で、ではお兄様とお呼びしても?」

お兄様!?きたーっ!!

妹って今まで憧れだったんだよなぁ。まさか本当にお兄様と呼ばれる日がくるなんて。

「もちろんだよ。今日からよろしくな」

こんな可愛い妹をいじめるなんてゲームの中のアレクは何を考えていたんだ。

そして、マインがうちにきて数日が過ぎた。

しかし、マインは俺が話しかけてもあまり話さず、どことなく距離を置いていた。

そんなある日のこと。我が家でお茶会が開かれた。

たくさんの貴族が集まり、当然レオナ公爵令嬢も招待されていた。

「マイン様、はじめまして。私、ストロノーフ公爵が長女レオナ・ストロノーフと申します」

レオナが庭園にいたマインに挨拶した。

実はレオナは度々屋敷にきていたが、引きこもりがちのマインとは会ったことがなく、これが初対面だった。

「あ、あの、マイン・ノイマンです。よ、よろしくお願いいたします」

少し怯えた風にマインは挨拶を返すと、すぐにその場を立ち去ってしまった。

「変わった子ね」

「多分人見知りなんだよ。あまり人前に出ない子でね」

そして、しばらくお茶会に参加していたが退屈してきた為俺はそのへんを散歩することにした。

レオナは他の貴族の男の子たちに囲まれていた。

みんなレオナを褒めたり、デートに誘ったり必死みたいだ。

そして、散歩をしていると女の子の集団に遭遇した。

女の子同士楽しく談話しているのかと思ったが、そうではなかった。

なんと、マインを取り囲むように数人の女の子がいじめていたのだ。

「あなたみたいな子がお茶会に出るなんて目障りだわ」

「悪魔の子のくせに」

「あんたなんかとっとと消えてくれないかしら」

なんだって?

悪魔の子?

俺は夢中でマインの前へと駆け寄った。

「あんた達、俺の妹に何してるんだ?」

俺は怒りのあまり令嬢たちを鋭く睨みつけた。

「ア、アレク様・・・」

「何してるんだって聞いてるんだっ!!」

俺は声を荒げた。

「も、申し訳ございませんでした!!」

令嬢の一人がそう言って頭を下げると全員あっという間に逃げていった。

「マイン、大丈夫か!?」

俺はすぐさまマインに声をかけた。

「あ、あの、お兄様は私のこと怖くないのですか?」

「何を言ってるんだ。怖いわけがないじゃないか。こんな可愛い妹なんだから」

「でも、私はこんな闇のように黒い髪に、瞳だって真っ黒で・・・私はきっと悪魔の生まれ変わりなんです」

「悪魔?そんなわけないだろ。俺はマインのその黒くてつやつやした長い髪も、黒曜石みたいなキラキラした瞳もすごく綺麗で魅力的だと思うよ。何より美人だ。きっと日本に生まれていたらミス日本になれたに違いない!」

「ニホン?」

「あ、いや。今のは俺の好きな小説の世界の話だよ」

ついうっかり口が滑ってしまった。

「お兄様は本当に私をお嫌いになってないのですか?」

「当たり前だよ。マインは俺の大切な自慢の妹だよ」

そう言うと、マインはぼろぼろと涙を流し泣きだしてしまった。

よほどいじめられたのが怖かったのだろう。安心したとたんに涙が出てきたってところかな?

俺はマインをそっと抱きしめた。

「もう大丈夫だから。マインはこれから俺が何があっても絶対に守るから」

そう言いながら優しく背中をさすった。

「お兄様・・・」

マインはしばらく俺の胸の中で泣き続けた。

俺は兄として、マインを守っていくと心に決めたのだった。

できれば主人公と恋に落ちたときは、主人公に俺のことは倒さないように説得してほしいな。



 私の名前はマイン。とある田舎の農村で生まれました。父は男爵、母はその男爵に仕えていたメイドでした。

父は、母が私を身ごもるとすぐにお屋敷から母を追い出したそうです。

それから母は女手一つで私のことを育ててくれました。

私はなぜか両親どちらにも似ない黒髪と黒い瞳のせいで村の人からは気味悪がられ、悪魔の子と言われ続けてきました。

しかし、母だけは私を守ってくれました。

「マイン、ちゃんとした髪の色に産んであげられなくてごめんね」

「ううん、私、お母さんからもらったこの髪も瞳もだいすきだよ?」

「いつかきっと、マインのことをわかってくれる人が現れるからね」

そして、私が10歳になったある日、働きすぎたのか母は倒れてしまいそのまま亡くなってしまいました。

私はひとりぼっちになってしまい、途方に暮れていました。

そんな時です。父の親戚だというノイマン伯爵が私に一緒に暮らさないかと言ってきたのです。

「あ、あの、でも私なんかをどうして?」

「それはね、君が才能ある子だからだよ」

「でも私、何も取り柄なんてないし・・・こんな見た目ですし・・・」

「いずれわかる日が来るよ。とにかくうちに来なさい」

「わ、わかりました・・・」

私は伯爵に言われるままノイマン家の養子になりました。

そして伯爵の息子だというアレク様と顔を合わすことになりました。

「この子はマイン。遠い親戚なんだが訳あって今日から我が家で一緒に暮らすことになった」

「あの・・・、マインです。よろしくお願いいたしますアレク様・・・」

私は恐る恐る挨拶をしました。

すると、アレク様は笑顔で答えました。

「よろしく。今日から一緒に暮らす家族なんだからそんな堅苦しい呼び方はないかな」

えっ?でも私なんかの悪魔の子が伯爵様の子息をなんてお呼びしたら・・・。

「は、はい。で、ではお兄様とお呼びしても?」

私なんかがアレク様をお兄様だなんて不相応だと分かりながらもそれ以外に思いつかなかったのでそう提案してみました。

「もちろんだよ。今日からよろしくな」

こうして、私に新しい家族ができたのです。

みなさんにご迷惑をかけないように暮らしていかなくては・・・。

私はそう考え、できるだけ部屋から出ないように生活をしました。

ところが、ある日のこと。我が家で開かれるというお茶会に出るように言われてしまいました。

養子とはいえ、伯爵の家の子が出席しないわけにはいなかった。

私はできるだけ目立たないように、隅でおとなしくしていたのですが、あろうことか公爵家の令嬢が私に話しかけてきました。

「マイン様、はじめまして。私、ストロノーフ公爵が長女レオナ・ストロノーフと申します」

お兄様のご友人のレオナ様です。

度々お屋敷に来ていたみたいですが私はひきこもっていたのでお会いするのはこれが初めてです。

「あ、あの、マイン・ノイマンです。よ、よろしくお願いいたします」

私は緊張しながらもなんとな挨拶を返すと、逃げるようにその場を立ち去ってしまいました。

そして、いつの間にか庭園を出てしまい、一人で休んでいると、今度は数人の貴族令嬢が私に話しかけてきたのです。

ああ、またいつものようにいじめられるのかな?

村にいた頃はいつも容姿のことでいじめれてました。

「あなたみたいな子がお茶会に出るなんて目障りだわ」

「悪魔の子のくせに」

「あんたなんかとっとと消えてくれないかしら」

やっぱり。でも大丈夫です。こんなことはいつも言われていたので慣れています。

もう少し我慢すれば向こうも気が晴れて去っていく筈ですから。

そう考えていた時でした。

まさかあの人がくるなんて思ってもみませんでした。

「あんた達、俺の妹に何してるんだ?」

なんと、私の前にお兄様が現れたのです。

私なんて親戚とはいえほとんど他人なのにどうして?

お兄様は令嬢たちを鋭く睨みつけました。

「ア、アレク様・・・」

「何してるんだって聞いてるんだっ!!」

お兄様は令嬢たちに向かってそれは大きな声で叫びました。

「も、申し訳ございませんでした!!」

令嬢の一人がそう言って頭を下げると全員あっという間に逃げていきました。

「マイン、大丈夫か!?」

令嬢たちが逃げ去るとお兄様はすぐに私に声をかけてきました。

「あ、あの、お兄様は私のこと怖くないのですか?」

どうしてこんな悪魔の子みたいな私なんかを助けてくれたのでしょうか。

「何を言ってるんだ。怖いわけがないじゃないか。こんな可愛い妹なんだから」

「でも、私はこんな闇のように黒い髪に、瞳だって真っ黒で・・・私はきっと悪魔の生まれ変わりなんです」

今まで周りからそう言われてきました。

「悪魔?そんなわけないだろ。俺はマインのその黒くてつやつやした長い髪も、黒曜石みたいな綺麗な瞳もすごく綺麗で魅力的だと思うよ。何より美人だ。きっと日本に生まれていたらミス日本になれたに違いない!」

「ニホン?」

初めて聞く単語でした。

「あ、いや。今のは俺の好きな小説の世界の話だよ」

私のこの容姿を褒めてくださったのはお兄様が初めてでした。

(お母さん・・・お母さんの言うとおりでした。私のことを理解してくれる人にやっと出会えました・・・)

「お兄様は本当に私をお嫌いにはなってないのですか?」

「当たり前だよ。マインは俺の大切な自慢の妹だよ」

私は嬉しさのあまりにぼろぼろと涙を流し泣きだしてしまいました。

そしてお兄様は私をそっと抱きしめてくれました。

「もう大丈夫だから。マインはこれから俺が何があっても絶対に守るから」

お兄様はそう言いながら優しく私の背中をさすってくれたのです。

「お兄様・・・」

これから先、何があってもお兄様さえそばにいてくれれば私は頑張れそうです。

(お母さん、私はもう大丈夫です。見守ってくださいね)

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