この世界がギャルゲーだと俺だけが知っている

@pon0610

第1話転生したのは悪役貴族

 美少女恋愛シミュレーションゲーム、通称ギャルゲー。数人の美少女との親密度を深め、数ある選択肢の中からフラグをたてていき攻略してゆくゲームだ。

そんなハーレム系ゲームの主人公になれたらどれだけ幸せだっただろう。

ある日、調子にのって朝方までゲームをしていたせいで寝坊してしまった。

「やばっ!今日の1限は必修科目だった!」

この授業を受けなければ単位を取ることが難しくなってしまう。

俺は大慌てで着替え、ダッシュで玄関を飛び出した。

ちょうど飛び出したところにトラックが突っ込んできた。

俺はそのままトラックにひかれ・・・ることはなく、さっと避けた。

「あぶないあぶない。もう少しで定番の『暴走トラックにひかれ異世界へ』になるとこだった」

俺は一安心して学校に向けて走りだした。

しかし、その安心がいけなかった。

うっかり見通しの悪い交差点を飛び出してしまい、乗用車にひかれてしまった。

「ああ・・・。どうせなら昨日のゲーム全員クリアしてから死にたかったな」

俺の意識はそのまま闇の中へ消えていった。

 という記憶をつい先程思い出してしまった。

アレク・ノイマン、10歳。ノイマン伯爵家の一人息子だ。

それはそれは可愛がられて育てられ、立派な我儘貴族へと成長していた。

そう、先程転んで頭を打つまでは。

「・・・さま!アレク様!」

そう呼ばれて俺は目を覚ました。

「ん・・・、あれ・・・。ここは・・・?」

「アレク様っ!気が付きましたか!?」

俺はベッドに横になっていた。そして目の前にはいかにもなメイドさんがいた。

後頭部が痛い。一応頭の下には氷枕があった。

どうやら後頭部をぶつけたようだ。

「そうだ!学校行かなきゃ!」

俺は慌てて起き上がった。

「アレク様、お気をたしかに!アレク様は先程お庭で転んでお怪我をされてしまわれたのです」

あれ、そう言われればそんな記憶もある。

庭で猫をいじめて追いかけていて足を滑らせ転倒したのだ。

前世の記憶を取り戻した今、自分の愚かさがとてつもなく恥ずかしくなってきた。

「アレク様、申し訳ございません。わたくしがついていながらお怪我をさせてしまい・・・」

「いえっ!気にしないでください!悪いのは俺なんですから。どうか頭をあげてください。今回のことは元はといえば俺の自業自得なんですから。むしろ、みなさんにご迷惑をおかけしてすみませんでした」

と、俺がメイドのエルザに頭を下げるとエルザはひどくびっくりした表情をした。

そういえば、今の俺はまだたった10歳のワガママ坊っちゃんだった。

そして数日、俺は使用人全員の同じ表情を見ることになった。

しかし、前世のオタク大学生の記憶を取り戻した俺が今さら偉そうになどできるはずもなく、使用人たちの間では頭を打った衝撃で性格が変わってしまったという噂でもちきりだった。

この数日、高熱にうなされ、熱が下がりやっと前世の記憶を整理することにした。

たしか、あの日は朝方までゲームをしてて・・・。

「あっ!」

そのやっていたゲームが問題だった。

『Magical LOVERS』

魔法科高校を舞台にしたギャルゲーだ。

平凡な主人公がチートな魔力を持って入学し、さまざまなイベントを通して貴族のお嬢様を攻略していく恋愛シミュレーションゲームだ。

「なんだってーーーっ!」

つい叫び声をあげてしまった。

今の俺アレク・ノイマンはその主人公のライバルキャラだ。

メインヒロインである、レオナ公爵令嬢に恋しているアレクはレオナを自分のものにしようと主人公にさまざまな嫌がらせを行なう。そして最後はレオナに無理やり迫るアレクは主人公に倒されてしまうというストーリーだ。

そしてバッドエンドでは、アレクは自分のものにならないレオナを殺害してしまい、アレクは公爵令嬢殺害の罪で投獄されてしまう。

つまり、どう転んでもアレクにハッピーエンドは訪れないのだ。

「なんで主人公じゃなく、よりにもよってこんなイヤなキャラになるんだよ・・・」

しかし、なってしまったものはしかたない。これからのことを考えていかないと。

とりあえず、主人公に倒されないように強くなろう。

そう考えた俺は、街の図書館に向かった。

なぜかというと、この世界は魔法があるからだ。

魔法に対抗するには魔法を勉強しなければならない。

俺は馬車で街の図書館に到着すると、メイドのエルザに声をかけた。

「ちょっと時間がかかるからエルザは自由にしてていいよ」

「かしこまりました。ただし、くれぐれも一人で図書館から出ないようお願いします」

そして俺は魔法書のスペース、エルザは小説のスペースと別れた。

しばらく魔法書を読んでいて、俺は魔法の仕組みを理解した。

元々理工学部の学生だった俺は、魔法の仕組みを数学的に解釈してみた。

魔力という力を媒体に、魔法式というものを組み立て魔法を構築し操作するようだ。

この魔法式の組み立ての仕組みが完全に数学の世界だった。

俺はそれから魔法の勉強に夢中になった。

もちろん、主人公に倒されないように身体も鍛えはじめた。

屋敷の使用人たちは毎日勉強や鍛錬に夢中になる俺にびっくりしていた。

なんせ今まで10年間、いたずらや遊びしかしてこなかったのだから。

そんなある日、屋敷にある来客が現れた。

父、ノイマン伯爵の友人だという貴族だ。

「やあ、君がアレク君ですね。僕は君のお父様の友人のキース・ストロノーフです」

「はじめまして。息子のアレクです。以後お見知りおきを」

俺はキースさんに挨拶しながらふと思った。

「あれ?ストロノーフってどっかできいたような・・・」

そして、キースさんの隣には、キースさんに隠れるように女の子がいた。

「この子は僕の娘のレオナです。アレク君と同い年だから、もしよかったら友達になってやってくれませんか?」

俺の破滅の元凶がついに現れてしまったーーっ!!

父親の陰に隠れながらモジモジしているレオナ。

人見知りなのだろうか。

そして、子どもは子ども同士ということで俺とレオナは俺の部屋にやってきた。

「とりあえず、改めて。アレクです。よろしくお願いします」

レオナに挨拶した。

しかし、レオナはというと・・・。

「私、あなたと友人になる気なんてないから。まぁ、どうしてもっていうなら使用人にくらいならさせてあげてもいいわよ?」

何という変わりようだろうか。

あれ、魔法科高校のレオナってこんなキャラだったっけ?

「かまいませんよ。俺も別に友達なんて欲しくありませんから」

前世でコミュ症だった俺に友達など別に必要ない。

むしろ、悪役キャラの俺の周りは敵だらけだ。

とりあえず俺は一人で魔法の勉強を始めた。

レオナは一人で紅茶を飲んでいる。

しばらくすると、レオナが声をかけてきた。 

「ねぇ・・・」

俺はひたすら魔法書を読んでいた。

「ねぇってば!!」

「え?ああ、ごめん気づかなかった。何か用?」

「私みたいな美少女と一緒にいて何も思わないの!?」

自分で自分を美少女って・・・。

10歳の女の子に何かを思うほどロリコンじゃない。

むしろ、俺が破滅する元凶のレオナとはあまり関わりたくないのが本音だ。

「俺は勉強しなきゃいけないんだ。レオナ様も別に俺なんかと仲良くなんてしたくないんだろ?」

「それは・・・そうだけど・・・」

そして、その日はあまりレオナと話すこともなくレオナは帰っていった。

これでレオナを巡る俺のバッドエンドフラグから少しは離れたかな?

しかし、仲良くなりたくないはずのレオナは次の日もうちにやってきた。

「特別にあなたを私の護衛にしてあげるわ」

突然そんなことを言い出してきた。

「はい?」

「今から街に買い物に行くのだけど、特別にあなたを連れて行ってあげるわ」

まぁ、どっちみち図書館に借りた魔法書を返しに行かないとだったからいいか。

そして俺とレオナは街にやってきた。

しばらくウインドウショッピングを楽しむレオナについて歩いた。

レオナの付き添いのメイドはたくさんの荷物を持たされていた。

俺は店に並んでいる魔導具が気になって仕方なかった。

「次はあっちの店に行くわよ!」

レオナがそう言って走り出した。

そして、飛び出した道の角から馬車がやってきた。

「危ないっ!!」

俺はとっさにレオナの腕を掴み、引き寄せた。

紙一重で馬車から助けることができた。

荷物を持たされていたメイドより早く。

「よくやったわ。あなたを護衛にして正解だっ・・」

「このバカっ!!いきなり飛び出すやつがあるか!危ないだろっ!」

「な、何よ・・・せっかく私が褒めてあげてるのに」

「もう少しで死ぬとこだったんだぞ!!いいか、死んだら後から後悔しても何もかも遅いんだよっ!もっと自分を大切にしろ!」

今の俺みたいになってからじゃ手遅れだからね。

俺はレオナを壁際で両手をドンしていた。

いわゆる壁ドンだ。

「ご、ごめんなさい・・・」

レオナの目から涙が溢れていた。

「あ、いやっ、ごめん。つい」

そうだよな。10歳の女の子がいきなり男の子からこんなふうに追い詰められたら怖いよな。

まぁ、これで嫌われただろうから結果オーライかな。

この日はそれ以降、怒っているのか顔を赤くしてうつむくレオナと口を聞くことはなかった。



 私はレオナ・ストロノーフ。ストロノーフ公爵家の令嬢である。

公爵令嬢ということで、私を結婚相手にとたくさんの見合い話がくる。

そして、私に会った男の子はみんな私を可愛い、ぜひ結婚してくださいと言ってくる。

正直面倒くさい。

ある日、お父様が友人の屋敷に行くからレオナも来なさいと言ってきた。

しかたないからついて行くと、そこには私と同い年の男の子がいた。

また結婚相手とか言われたら面倒なので、私は冷たい態度をとることにした。

しかし、このアレクという少年は私に全く興味を示さず、私と二人きりだというのに本ばかり読んでいる。

こんな悔しいことは初めてだった。

あまりにも悔しくて声をかけるが彼は私に気付きもしない。

「ねぇってば!!」

「え?ああ、ごめん気づかなかった。何か用?」

やっと私に気付いたわね。

「私みたいな美少女と一緒にいて何も思わないの!?」

今までの男の子は私がうんざりするほど自分から言い寄ってきたんだけど。

しかし、彼の口から出てきたのは耳を疑うセリフだった。

「俺は勉強しなきゃいけないんだ。レオナ様も別に俺なんかと仲良くなんてしたくないだろ?」

私より勉強が大事なの!?

嫌われるのが目的で冷たい態度をとったけど、全く私を意識しないのは女としてとても屈辱的だった。

次の日、私は彼を買い物に誘うことにした。

こうなったら絶対彼を私に惚れさせてみせるわ。

「特別にあなたを私の護衛にしてあげるわ」

そして、私達は街にやってきた。

しばらく彼を連れて買い物をする。

今日は特別におしゃれをしてきたからきっと彼は私のことを見てるはず。

と思ったけれど、彼は私など見向きもせず、店の魔導具に夢中だった。

これはお店の選択を間違った。

早く次の店に行かないと。

「次はあっちの店に行くわよ!」

私はそう言って走り出した。

そして、飛び出した道の角から馬車がやってきた。

「危ないっ!!」

アレクが私の腕を掴み、引き寄せられた。

私はアレクに助けられたのだった。

私に荷物を持たされていたメイドのアンより早く。

「よくやったわ。あなたを護衛にして正解だっ・・」

と言いかけた時だった。

「このバカっ!!いきなり飛び出すやつがあるか!危ないだろっ!」

先程まで何があっても無表情だったアレクが突然声を荒げた。

「な、何よ・・・せっかく私が褒めてあげてるのに」

「もう少しで死ぬとこだったんだぞ!!いいか、死んだら後から後悔しても何もかも遅いんだよっ!もっと自分を大切にしろ!」

彼は私を壁際に寄せると両手を壁につきたてた。

今まで甘やかされて育てられてきた私は両親にも怒られたことがない。

彼はそんな私を本気で叱ってきた。しかも私の身を案じてこんなにも必死に・・・。

さっきから心臓の鼓動が倍くらいの速さになっている。

もうまともにアレクの顔を見ることができないくらい。

「ご、ごめんなさい・・・」

私の目からは涙が溢れていた。

怒鳴られて怖いからという訳じゃない。本気で私の心配をしてくれたのが嬉しかったからだ。

「あ、いやっ、ごめん。つい」

アレクはそう言いながら私から離れた。

(ああ、あのまま離れないでほしかったわ。アレク様・・・)

この日はもうドキドキが止まらなくなり、まともに彼と口を聞くことができなかった。

彼を惚れさせるはずが、私が彼に惚れてしまったのだった。

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