第2話 同一人物

ある日の事だった。



「じゃあねー、麻魅」

「うん、バイバーイ」


中学の友達とカラオケに行った帰りの事だった。

別れて帰っていると ―――



「なあ、兄ちゃん、ぶつかっといて詫びなしかっ!!」


「………………」



そういう声が聞こえ絡まれている男子生徒に遭遇した。



「あれ? あの男の子……確か同じクラスの……」



グイッ

胸倉を相手に掴まれる男子生徒。



「ちょ、駄目っ! 暴力……」



駆け寄ろうと近く迄行ったのと同時に、クラスメイトの男子生徒は相手に、ニコッと余裕と思われる笑みを浮かべ、掴まれた胸倉を捻り返した。



ドキッ

違う一面に驚く私。



「えっ!?」



ドカッ



ドサッ



相手は蹴っ飛ばされ地面に倒れ込んだ。



「テメェらから、ぶつかって来たんだろ!? ふざけた事言ってんじゃねーぞ!」



ドキン



≪嘘……?……岾……下……君?……同一人物……だよね……≫



相手の人達は逃げる様に去って行った。




「………………」



振り返る男子生徒。



ドキッ

胸が大きく跳ねた。



「あの……」と、私。

「何?」と、岾下君。


「いいえ……えっと……」



≪どうしよう?≫


内心、そう思う中、彼の豹変ぶりに話を聞きたい私だけど……


私の方に歩み寄る岾下君。



ドキン……



ドキン……




「いつから?」

「えっ?」

「いつからいたんですか?」

「それは……絡まれている声がして……」

「……ふーん……」


「………………」



「じゃあさ……俺の本性気になる感じ?」



ギクッ



「正直に言えば? 」

「……いや……えっと……」

「気になんだろ?」

「……それは……」



私の両肩をポンとすると顔を近付けて来る。



ドキッ




≪えっ!? えっ? な、何?≫



私は内心思いながらドキドキし、胸がうるさくなる。



そして彼は耳元で



「内緒♪」



ドキッ



「えっ!?」




≪ビ、ビックリした……≫



「俺の事はバラすな!」

「いや……バラすつもりは……」

「幼なじみに話そうとしてんの見え見えなんだけど」


「あんた鋭いね!」

「あたりめーだろ!? 学校での違う俺見て、ネタになる面白そうなやつねーからな! 霞賀 麻魅」



「だって大ニュースじゃん!」

「言った所で誰も信じねーと思うけど?」

「そんなの分かんないじゃんっ!」



両頬を摘ままれる。




「痛い……」

「口が裂けても言うな!」



パッと離される。



「いや……口が裂けたら言えないし!」

「口減らず女!」

「今に始まった事じゃないし! 幼なじみとどんだけ言い合ってると思う訳?」


「だろうな。じゃあな! 早く帰れよ! 霞賀 麻魅。一・応・女・の・子・だから」



そう言いながら帰って行き始める岾下君。



「い、一応って……れっきとした女の子なんですけどっ!」

「はいはい」



クスクス笑いながら帰って行く男子生徒。




岾下 稔樹


もう1つの顔?



――― でも ―――



彼の存在が


一瞬にして


イメージが変わった


そして


私の心は揺れ動く

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