堪忍袋

あの子が怒らないなら

あの子が優しすぎるから

私があんたに言うよ。


傷つくあの子を見るのは、もう嫌だから。

あの子の大事な友達だからこそ

私はあんたに言わなくちゃいけないんだ。


「海がオッケーしてくれると思ってなかった。」

「ひなたちゃんにも、お世話になったから。・・・連絡くれるなんて、びっくりしたけど。」


私は海の家に行った。

急に学校をやめるなんて言い出した海は、学校にも来なかったし、私の幼なじみで海の友達の空は、海をずっと心配していたから。


「で、どうすんの?」

「進路は決まってるんだ。だからあとは高校を卒業するだけ。」

「別に、転校する必要なかったんじゃないの?」


私は普通にそう言った海に、思わずそう言った。

海が転校せずに高校を卒業するなんて、絶対に無理だと思っていた。

学校には来ないし、連絡も寄越さない。

勉強も追いつかない。

そんな海が卒業するにはテストで点を取るしかない。

そんな海をずっと見守って、ずっと面倒を見てきたのが空だった。

だからこそ、私は海に言いたいことが山ほどあったのだ。


「進路って?」

「声優の専門学校に合格したの。高校卒業できてなくても、中卒から入れる学校なんだ。

だから、もう学校やめようと思って。」


プチン。

そう言われた瞬間、私の中で堪忍袋の緒が切れた。


「海さ、もう少し周りの人たちの気持ちも考えたら?」


やりたいようにやらせてくれる親に。

仕方ないって転校手続きしてくれる学校の先生に。

海のしてること、なんだって温かい目で、

どんなに傷ついたって許してくれる空に。


空は海のことをずっと信じてた。

学校に来てくれるって。

また一緒に色んなことができるって。

それをあんたはなんにもわかんないわけ?

なんにも伝わってないわけ?


「甘ったれたこと言わないでよ。」


空は、海が来なくなって、いや、海を迎えに行った日に「来ないで」って言われたときから、心の中に深い溝ができた。

そんな空は、自分の夢を諦めずに今必死になっているっていうのに。



「いい?別に海のために言ってるんじゃないの。

海が空の友達だから言ってるの!

今海が言ったこと、空がいつもみたいに許して笑ってくれると思う?」



いい加減、伝わってよ・・・・。

空がどんな気持ちだったか察してよ・・・・。

お願いだからいい加減な気持ちで夢なんか追わないでよ・・・・!!


そうじゃないと


あの子の傷はふさがらないんだから――――。

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