太陽を求めて

人は、輝いていた瞬間が一度でもあるとそれを目指して躍起になり、どん底からはい上がろうと足掻いていく。


私もまたしかり。

もう一度、光が差していた瞬間を求め続けているのだ。


「海、今日は学校どうするの?」

「・・・・行かない。」


母の問い掛けに、私は布団を頭まで被ったままそう言った。


なにもかもやる気がおこらない。

なにもかも嫌になった。

本音を言えば、息をすることすら面倒に感じる。


中学校の時は、殆ど休まなかった学校も、高校は逆に殆どいかなくなった。


好きなことが楽しくない。

綺麗事をいってくる先生が嫌だ。

面倒な友達たちとの会話も嫌い。


そんな嫌いなことばっかりな学校にだって、大好きな子がいた。

その子は私がどんなに突き放しても、そんなのお構い無しに笑いかけてくる。


「海」


私を呼ぶ声は、いつも優しくて。

私よりも華奢で大きな手が、私の手を包む。


「海の手は、あったかくて好き。

太陽みたいにポカポカしてて、そうだな・・・安心できるね。」


そんな風に笑うあの子は、私にとって太陽だった。

暗い場所にいても、一人でいても。

私を見つけだして「一緒に行こう。」って、声をかけてくれる。


そんなあの子の優しさに、私は甘えてた。


「来ないで」


一緒に学校に行こうと約束をしたあの日、私はあの子にそうメールした。

別に、その時はそんなに気にしてなかった。

また違う日に学校に行けば、またいつもみたいに笑いかけてくれると思ってた。


でも私は今まで、どれだけ自己中心的だったか気づいたのだ。

がらりと教室のドアを開ければ、沢山のクラスメイトに囲まれたあの子がいた。

クラスメイトは、あの子が話す度に笑顔になる。

私に気づいたあの子は、「おはよう」と言ってくれたけれど私は何も言えなかった。


いつも私にくれていた笑顔がクラスメイトのものになっていた。

いいや、違う。

本当は誰のものでもなく、あの子のもので。

あの子の生活もあの子のもので。

私はあの子を傷つけたことなんて、何にもわかってはいなかった。


「学校に行く」と電話したあの日、受話器越しに聞こえた嬉しそうな声。

あの日迎えに来てくれると言ったあの子に、「来ないで」と言った私。


もうあの子の目に私は写ってはいない?

けれど、一緒にいた時間は嘘じゃない。


手放してしまった私の光は、私の手には届かなくなった。

だからいつまでも光を探し続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る