第6話
津島人形工房。うちがよく人形を引き取りに行く、いわゆるお得意さんだ。
新しく人形を制作するだけでなく、古い人形の修理もやっている珍しい工房だと聞いている。
人形を買ってくれたお客さんへのアフターサービスとして、修理だけでなく、人形を引き取って供養しているというわけ。
純和風の門を抜け、これまた和風の引き戸の脇にあるチャイムを鳴らすが、返事がない。
「すみませーん」
声をかけても返事がないので、私は引き戸に手を掛けた。
抵抗なくするりと開く。
うちの近所ではカギをかけないことが結構多い。
不用心だとは思うんだけどね。
「すみませーーーーーん」
一層大きな声を張り上げて叫ぶと、奥から
「今手が離せないので、こっちまで入ってきてくださーい」
という男の人の声が薄く聞こえた。
「では、失礼しますっと」
私は軽く会釈して、家の中へと入る。
薄暗い長い廊下の先にぼんやりと明かりが漏れている部屋が見えた。
私は足早に通り抜け、工房であろう部屋を覗いた。
そこには、人形の頭と背中を向けた男の人がひとり。
「すいませんが、そこの椅子に掛けて待っていてもらえませんか?」
男の人はこちらを振り向かずに、後ろ手で指差す。
指の先には手作りだろうか。少しいびつな木製の椅子がちょこんと置かれていた。
こっちも向かずに待たせるなんて失礼じゃない?
と一瞬思ったが、男の人の姿を見ておとなしく座ることにした。
彼は、人形の顔に筆を入れていた。
人形の頭はとても小さい。その中でも、眉や目は特に小さく失敗ができないところだ。
確かにこれは手が離せないな。
しんと静まりかえった部屋に、ときおり筆の音が響く。
その音が心地よくて、私はいつの間にか、眠ってしまった。
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