第5話
捨て犬のような目をした千紘の誘いを振り切り、何とか家に帰ってきた。
桜の花が幾重にも降る境内を見ると、祖父が竹箒を片手に花びらを集めていた。
「お爺ちゃん、ただいま」
「おお、撫子か。おかえり」
ふうと息をついて腰を叩く。
「こんなの終わらないんだし、適当にきりあげてよね!」
「そうはいってものう。ここは神様の住まう土地じゃ。
綺麗にしとかないとのう……」
「じゃあ、私がおつかいのあとやってあげるから!
で、どこで何をしてくるの?」
そういうと、祖父はこちらを向いてにやりと笑った。
こうみえて祖父は非常に悪戯好きだったりする。
あれは絶対に何か企んでいる顔だ。
こんなことなら、無視して千紘と遊びに行けばよかった。
そんな私の気持ちに気づいたのか、気づいていないのか、相変わらず笑顔のままで、
「これから工房に人形を引き取りに行って欲しいんじゃ」
と言った。
「えっ、人形を?」
形川神社に供養される人形は直接持ち主が持ってくることがほとんどだが、たまに人形を作る工房から持ち込まれることがある。
新しい人形を買ったので、古いものを引き取ってほしいとか、修理中に持ち主が亡くなり、引き取り手がいなくなるとか、そういった理由だ。
長い間人間に持たれていた人形は良くも悪くも「念」がこもっている。
だから必ず祖父が取りに行っていたはずなのだが……。
「いいの? 私が取りに行っても」
「ああ、撫子なら問題ないじゃろう。それに……」
「それに……何?」
そう聞くと、祖父はまたにやりと笑ったかと思うと、鼻歌を歌いながら「とにかく頼んだぞ~」と言い残し、手をひらひらさせながら境内の奥の方へと消えていった。
「何なのよ、もう!」
私はぶつぶつ文句を言いながら、自分の部屋に戻ろうとしたそのとき、背後に視線を感じた。
じっとりと暗く、冷たい視線。
急いで振り返ったが、そこには誰もおらず、ただ静かに桜が舞い落ちていただけだった。
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