第14話 史上最強の魔王。エルフの姫から情報収集を開始する

 盗賊たちは逃げていなかった。

 両手足の骨を折ったので、逃げられなかったのだろう。


『陛下。こいつら殺しておかないの?』

『……そうだな』


 俺は周囲を魔法で探索する。離れた場所にオークは五匹ほど居た。


 そして馬車の中に一つの魔道具を見つけた。

 お頭の懐の中にも一つ魔道具があった。


「これは……」


 調べて見ると、荷車の中にあったのはオークを呼び寄せる魔道具だ。

 かなり高性能な魔道具だ。盗賊風情が持っていられるような者ではない。

 お頭が持っていたのは、魔物よけの魔道具だ。

 こっちはさほど力は無い。よほど至近距離じゃないと効果は無いだろう。


「なるほどな」


 荷車に乗せた魔道具でオークを呼び寄せ、魔物よけの魔道具で自分たちの身を守る。

 そういう作戦だったのだろう。


 俺は盗賊のお頭に尋ねる。


「で、誰に頼まれた?」

「な、なんのことか、わからねーな」

「ふうん。しらを切るのか」


 俺は骨の折れた足を、強く握った。


「ぐあああああああ!」

「で、誰に頼まれた?」

「本当に知らないんだ!」


 もう一度強く握る。


「ぎやああああああ、……本当に知らないんだ! 許してくれ」


 それを、五回ほど繰り返すと、お頭は泡を吹いて失神した。


『陛下。こいつら本当に知らないのかな?』

『かもしれないな』


 汚れ仕事をさせる末端に、依頼主が正体を知らせることは少ないのかも知れない。


「知らないなら、仕方ない。街に向かうか」


 そして俺はリュミエルを背負って歩き出す。

 リュミエルの豊かで柔らかい胸が背中に当たった。


 肩の上に乗っていたヨルムは、俺たちの上を気配を消してふわふわと飛ぶ。


『陛下、あいつら放置していいの?』

『ヨルム。これが何かわかるか?』


 俺は先ほど回収した魔道具をヨルムに向けて掲げた。

 すると、ヨルムは上から降りてきて魔道具の匂いを嗅いだ。


『……魔物避けの魔道具?』

『そうだ。そして、オークを呼び寄せる魔道具はそのままだ』


 あいつらは手足を折られているので、魔道具によって呼び寄せられたオークが来ても逃げられない。


『生き残られるかどうかは運次第だな』

『十中八九、一時間後にはオークの胃袋の中だと思うけどねぇ』

『だろうな』


 だが、奴等もまた、オークにリュミエルを食わせようとしたのだ。

 同情はしない。



 俺が、街に向かって道を歩き始めて三十分後。


「……えっ? ここは?」

 リュミエルが目を覚ました。

 目を覚ますと同時に、ヨルムの気配が一層薄くなった。

 ヨルムはリュミエルに気付かれないように配慮しているのだろう。


「起きたか。大丈夫か?」

「わ、わたしは……」


 しばらくリュミエルは混乱しているようだった。

 だが、すぐに思い出したようだ。


「ありがとうございます。ハイラムさん」

「気にするな。身体は大丈夫か?」

「はい、ありがとうございます。もう歩けますので……」

「無理はするな」

「いえ、本当に大丈夫なので」


 俺はリュミエルを地面に降ろす。

 リュミエルは頬が赤かった。胸をずっと押し当てる形で背負われていたことが恥ずかしいのかも知れない。


「あっ! ハイラムさん。剣ありがとうございます」

「気にするな。せっかくだ、その剣はやろう」

「いえ! このような高価な物はいただけません!」


 そういって、リュミエルから剣を返されてしまった。


「あのハイラムさん。商人たちは――」

「盗賊な。あいつらは商人じゃない」


 俺が訂正して、リュミエルは自分がなにをされかけたのか、頭に思い浮かべたのだろう。


「……はい。盗賊たちはどうなったのですか?」

「あの場に放置した。少し離れた場所にオークが居たから、食われているかもな」

「……そう、ですか」

「不満か?」

「いえ、そんなことはないです」


 それでも、少し心配そうに、リュミエルは一度道を振り返った。

 勇者という奴は本当に、お人好しだ。


「気になるなら街に戻った後、人手を連れて迎えに行ってやれ。どうせ今の俺たちでは十人も運べない」


 俺がそういうと、やっとリュミエルは前を向いて歩き始める。


「リュミエル。話を聞いていいか?」

「はい。この国のことなどの常識をお教えするというお約束でしたね」


 俺はは早速リュミエルに尋ねる。


「この国は何という国なんだ?」

「えっと、この国はオルトヴィル王国という名前です」

「オルトヴィル? リュミエルの家名と同じだな」

「はい、私は国王陛下の娘、第一王女なのです」

「なるほどな」


 盗賊たちがエルフの姫と言っていた。

 つまり、リュミエルのことを第一王女と知った上で罠にはめたのだろう。


「他にも聞きたいことが沢山出てきたが、とりあえず国のことを教えてくれ」

「はい。オルトヴィル王国は……」


 百年前にこちらの大陸を統一してできた超大国らしい。


 オルトヴィル王国の支配者はエルフである。

 身分としては、エルフを頂点に、次に獣人やドワーフなどが続き、最下層が人族らしい。


「盗賊たちが、俺のことを劣等種族と言っていたが、そういう事情か」

「はい。申し訳ありません」

「なぜ、リュミエルが謝る?」

「私も施政者側の人間なので……」


 その心構えは素晴らしいと思う。


「法律で、身分制度があるわけではないのですが……」

「まあ、そういう侮蔑の感情をなくすのは難しいだろうな」

「はい。私たちの力不足です」


 リュミエルは申し訳なさそうに言う。

 俺が尋ねると、リュミエルは素直に隠さずに答えてくれる。

 情報収集をかねてリュミエルにどんどん質問していった。

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