第13話 史上最強の魔王。再び勇者を助ける

 商人はリュミエルの手から剣を奪い取る。


「やっぱりいい剣だ。臨時収入だな」

「ああ。それにしてもこいつをオークに食わせるのはもったいねえな。一発やっておきてーな」

「そりゃいいや! お高くとまったエルフの姫を好き放題やってやりてえってずっと思っていたんだよ」


 商人たちが下衆なことを言い始める。


「お前ら……」


 リーダー格の商人があきれたように呟く。


 止めるのかと思ったら、

「ったく。しょーがねえな。なるべく手短にな」

「さすが、お頭、話がわかる」

「ただし、最初は俺だ」

「お頭も好きですねぇ」

「うるせえ」


 お頭と呼ばれた商人、いや盗賊はリュミエルを仰向けにした。

 そして、鎧を引き剥がす。

 鎧に押さえつけられていた大きな胸の膨らみが、服を持ち上げる。


「はや……く、……にげ」

 リュミエルは意識がもうろうとしているようだ。


「まだ逃げろって言ってるぜ。オークから俺たちを守る気なのかよ。馬鹿な奴だ」

「お前に後ろから毒矢を撃ち込んだのは俺たちだって言うのにな」


 盗賊たちが楽しそうに言う。


「自分が守ろうとした奴に、陵辱されるってわかったときの表情が楽しみだな」

「ちげえねえ!」

「お頭の言うとおりでさ!」


 そして、お頭と呼ばれた盗賊は、リュミエルの頬を左手で掴む。


「おい、聞こえるか?」

 はっきりと、大きな声で言い聞かせるように、お頭はリュミエルに呼びかける。


「……」

「お前は俺たちにはめられたんだよ」

「…………」

「今からお前を陵辱し尽くしてやる。どんな気分だ? 自分を守ろうとした奴に辱められるってのはよう!」


 朦朧とした意識で、辛うじてリュミエルは、何を言われたのか理解したようだ。


「……ど、どうし……て」

「どうしてだと?」


 盗賊たちが、一斉に楽しそうに笑う。


「楽しいからに決まっているだろうが」

「お前みたいな、まっすぐな奴が、絶望の表情を浮かべる瞬間はたまらねんだよ!」


 そして、お頭はリュミエルの服の首元から、短刀で一気に引き裂いた。

 リュミエルの豊かな胸の谷間が見えて、盗賊たちが歓声を上げる。


「ひっ」


 リュミエルは胸をかばおうとするが、その両手を盗賊たちが押さえつけた。

 毒矢のせいで、力が入らないのか、リュミエルは動けない。


「さてさて、エルフの姫君の胸は、どんなもんかなっと」


 お頭が胸をあらわにするために、ゆっくりと服に手にかけた。


「そこまでにしておけ」

「なっ!」


 突然声をかけられて、盗賊たちは驚いて身構えた。


「な、なにものだ!」

「通りすがりの一般人族だよ」


 俺がそう言うと、盗賊の頭は安心したようだった。


「人族? なんだ、劣等種族かよ。邪魔だ。さっさと行けよ」

「ああ、俺たちは忙しいんだよ」


 劣等種族というのは気になったが、今はそれどころではない。

 俺は、黙ってお頭の顔面を殴りつけた。


「ぶべえ!」

「てめえ、何しやがる!」


 盗賊たちが一斉に短刀を抜く。


「何しやがるだと? それはこっちの台詞だよ」

きょろせころせ


 鼻から血を垂れ流し、歯が何本も折れたお頭が部下に命じた。

 盗賊の数は全部で十人。

 一斉にかかってきたが、俺の敵ではない。


 全員を素手で叩きのめした。

 全員の手足の骨を全て折っておく。


「劣等種族がなんで……」


 苦しみながら盗賊が言うが、俺は気にせず、リュミエルに声をかける。


「リュミエル大丈夫か?」

「……ハイラムさん?」

「もう大丈夫だ。安心しろ」

「……ありがとうございます」


 俺はリュミエルの身体に、上着を脱いで掛けた。


 リュミエルは安心したのか、気を失った。


『毒って言ってたよね』

『そうだな』


 俺はリュミエルの身体を調べる。

 左足の太ももの辺りに、吹き矢らしきものが突き刺さっていた。


『これか』


 オーク三匹を倒している最中に、後方から撃ち込まれたのだろう。

 そして毒が回り動けなくなったのだ。


『陛下って、解毒できるの?』

『出来るぞ』


 魔族は基本的に治癒や解毒、解呪の魔法は苦手だ。

 だが、魔王として、大けがを負ったり毒殺や呪殺されかけたことは何度もある。

 そのたびに使っていたので、前世の俺は魔族の割にそれらの魔法が非常に得意だったのだ。


 俺はリュミエルに解毒と治癒の魔法をかける。

 吹き矢に呪いの効果があったら困るので念のために解呪の魔法もかけておく。


 軽くかけたつもりだったのだが、リュミエルの傷が一気に癒えていく。

 毒も跡形も無く消え去った。やはり呪いもかけられていた。

 それも無事に解呪できた。


「おお……」


 俺は思わず声を上げる。想定以上の効果だった。


『そりゃ人族になったんだから。魔族が苦手な魔法を使えば、そうなるよー』

『そういうものか』

『そだよー』


 リュミエルは安らかな顔になった。だがまだ起きない。

 よほど疲れていたのだろう。


「さて、街に向かう前に後始末が大切だな」


 俺は、リュミエルの倒したオーク三匹の死骸を魔法の鞄に入れておく。


『死骸を放置したら、アンデッドになる可能性があって厄介なんだ』

『燃やしたら?』

『オークの死骸からは素材がとれるからな。売ったら金になる』

『そっか。お金はいくらあっても困らないもんね』


 俺はリュミエルを背負うと、元いた場所に戻る。

 そしてオークロードの死骸と、数百匹のオークの死骸も全部魔法の鞄に入れておく。


「さすがはヨルムンガルドの魔法の鞄だな。容量が尋常ではない」

『父ちゃんの自慢の鞄だからねー』


 後始末が終わると、俺は盗賊たちの場所に戻った。

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