第12話 史上最強の魔王。オークの群れを倒す
やりとりを俺の肩の上で大人しく聞いていたヨルムが念話を使って言う。
『さすが陛下! 勇者に恩を売って、戦いになっても全力出せないようにするんだね!』
『お、おう……、俺はそこまであくどくはないが……』
そして、俺はリュミエルに尋ねる。
「早速で悪いが、この国について――む?」
周囲からオークの気配が濃厚に漂ってくる。
一匹ではない。数百匹のオークが押し寄せてきていた。
「リュミエル、何かオークの恨みを買うようなことしたのか?」
「そ、そんなことは……」
リュミエルは不安そうに後方を振り返る。
「リュミエル。近くに居るとか言う人間たちが気になるのか?」
「はい。商人の皆さんで……」
どうやら、オークロードが街道を塞いだことで進めなくなった商人のために駆けつけたらしい。
この近くに戦闘能力の無い商人たちが十人ほどいるようだ。
オークたちは確実にこちらに向かってきている。
とはいえ、これだけ周囲にオークが大量に出現したら、当然商人たちの方にもオークは襲いかかるだろう。
「わかった。リュミエルはその商人たちの保護に向かうがいい。ここは俺に任せろ」
「で、ですが」
「さきほど見せたとおり、俺は強い。一人で大丈夫だ」
「……わかりました。ここはお願いします」
そういってリュミエルは走り出そうとした。
「リュミエル。待て」
「はい」
俺は魔法の鞄から、剣を取り出す。
ヨルムンガルドが残してくれた、業物の剣だ。
「剣がなければ困るだろう。これを使ってくれ」
「いいのですか?」
「剣がなければ、商人を守ることも難しいはずだ。遠慮するな」
「ありがとうございます!」
そしてリュミエルは走っていった。
『ヨルム。すまない。勝手に剣を渡した』
『いいよー。財宝は全部陛下にあげたものだからね』
『そう言ってくれると助かる』
そして、俺は周囲のオークどもと戦い始める。
数百匹のオークの群れを素手や武器で倒すのは効率が悪い。
魔法を使って倒すことにする。
「さすがに数が多いな。これを使うか」
俺は初級の基礎的な魔法である
オークは異常に耐久力の高い魔物だが、心臓か頭を潰せば流石に死ぬ。
だから、俺は一気に魔力弾を数百発同時に出現させる。
それをオークの心臓目がけて一斉に撃ち込んだ。
オークは悲鳴をあげて、次々に倒れていく。
魔物とはいえ、苦しめるのは本意では無い。
一撃で殺せるなら、一撃で殺した方がいいのだ。
『ひぇ……陛下すごいね。数が尋常じゃないよ』
『初級魔法だからな』
『それでもだよ。それに初級っていうけど、魔力弾の威力がもう……古代竜の上級魔法クラスだよ』
『強いヨルムに褒められると、自信になるな』
俺がそう言うと、ヨルムはぴゅんぴゅんと尻尾を元気に振った。
「さて、周囲のオークは全滅させたことだし。リュミエルを追うか」
『そだねー。情報仕入れないとだもんね』
「そういうことだ」
俺はリュミエルが去った方向へと走り出す。
道を走り、カーブを曲がると、ずっと遠くにリュミエルと、商人の荷車が見えた。
三匹のオークの死骸が転がっている。
そして、リュミエルは、右手に剣を持ったまま道にうつ伏せで倒れていた。
『あれ? オークにやられたのかな? 意外だなぁ』
ヨルムが驚くのも無理はない。
オークロードとの戦いを見るに、リュミエルは強かった。
数が多いとは言え、ただのオーク程度に後れを取るとは思えない。
「……くぅ。皆さん逃げてください」
リュミエルはもがいて、立ち上がろうとしているが、身体が思うように動かないようだ。
そんなリュミエルを、獣人族の商人が見下ろして言った。
「つくづく馬鹿な奴だ。騙されたとも知らずに。おい、お前ら目的は達成だ。さっさとずらかるぞ」
「へい」
「こいつ、いい剣持ってますぜ。売ったら金になりそうだ」
「おお、剣だけ回収しておけ。死骸は放っておいたらオークが食うだろう」
商人たちはそんなことを言っている。
「……にげ……早くにげ……」
そんな商人の言葉が聞こえていないのか、リュミエルはもがきながら逃げろと言い続けていた。
『陛下。どうしたのかな? 商人がまるで盗賊みたいなこと言っているけど』
『……罠だったんだろう』
『罠?』
俺は気配を消して、静かに近づきながら、ヨルムに説明する。
今回のオークの襲撃事件は全てリュミエルを殺すための罠だったのだ。
商人もグルだ。商人の振りをしたならず者だろう。
『そもそも、オークロードが道の真ん中で立っているっておかしいだろ』
『たしかに。あれは異常だったね』
オークの群れが、急に襲ってくるのもおかしい。
もし襲ってくるにしても、リュミエルのいる方ではなく、人数の多い商人の方を襲うはずだ。
力量の高い魔導師が、オークの群れを支配していると考えるべきだろう。
『随分と強い魔導師がいるんだねぇ』
『そうだな。とりあえず今はリュミエルを助けるか』
俺は気配を消したまま、街道の横、森の中を進み、至近距離まで近づいた。
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