第11話 史上最強の魔王。勇者の卵を助ける
剣が折れたことではなく、リュミエルが衝撃を受けていることに、俺は驚く。
『あれを宝剣だと騙されていたのか……』
『見る目がない勇者だね!』
どこか嬉しそうにヨルムは言う。
ヨルムにとって、勇者は天敵なので仕方が無い。
剣が折れてもリュミエルは逃げだそうとしない。
魔法の得意なエルフ族であるのに、魔法を使うこともなく折れた剣をオークロードに突きつけている。
『やはり、ヨルムの言うとおり勇者みたいだな』
『勇者は普通の魔法は使えないもんね』
リュミエルの魔力の量は、エルフ族の標準と比べても非常に多い。
これだけ魔力が多ければ、一流の魔導師になれるだろう。
勇者でなければだが。
勇者は強力無比な固有魔法を使う。かわりに他の魔法は使えないのだ。
そして、恐らくリュミエルには勇者としての自覚がない。固有魔法の使い方を知らないのだ。
『さて、勇者の卵を助けに行くか』
『え? どうして? そんな』
『ヨルム。天敵なのはわかる。だが、あいつは悪いことをしていないだろう?』
『でも……』
『俺が転生して初めて会った人だ。出逢いは大切にしないとな』
この場合の人というのは人族という意味ではなく、魔族エルフドワーフ人族なども含めた総称である。
『えー。陛下の決定にはしたがうけどー』
『理解してくれてありがとう。それとヨルムがしゃべるとややこしくなるから黙っていてくれ』
人の言葉を話したら、特別な竜だとばれてしまう。
「きゅる」
ヨルムは不満そうだったが、従ってくれるようだ。
俺がゆっくりとリュミエルの元へ歩いて行く間も、オークロードは激しい攻撃を加えていた。
それをリュミエルは、折れた剣を構えて、懸命にかわす。
『逃げればいいのに……。馬鹿なのかな』
ヨルムがあきれた口調でそう呟いた。
俺も愚かだと思う。だが勇者らしいとも思った。
そして、そういう愚かな行為が、俺は嫌いではない。
だから、俺は気配を隠さずにゆっくりと近づいていった。
俺から声をかけようとしたしたとき、リュミエルが叫ぶ。
「そこの少年! 逃げてください! こいつは非常に危険な魔物なんです!」
オークロードも俺に気がついたようだ。
攻撃の手をやめて、俺の方をじっと見ていた。
「俺のことは心配するな。それより剣が折れているのに、逃げないのか?」
「……私が足止めしているあいだに逃げてください! 向こうに行けば人が居るので保護してもらえるでしょう!」
「ふむ」
向こうにいるという人の方へオークロードを向かわせないために逃げなかったのかも知れない。
「俺のことは気にするな。逃げてもいいよ」
「でも!」
「魔法を使えないんだろう? ならば剣が折れたのならさっさと逃げたほうがいい」
「…………」
俺が逃げてもいいと言っても、リュミエルは逃げられない性格のようだ。
しかたないので、俺はオークロードを倒すことにする。
「お前に個人的な恨みはないが、死んでくれ」
「UGAAAAAA!」
オークロードは近づいてくる俺目がけて巨大な棍棒を振り下ろす。
俺はそれをかわさず、まともに受ける。
「ひっ」
俺が死んだと思ったのか、リュミエルが悲鳴をあげた。
「だから安心しろと言ったはずだ」
俺は左手でその棍棒を受け止める。
そして右手でオークロードの身体を貫いた。
心臓を取り出して、握りつぶす。
「オークは生命力が高い。クビを刎ねるか、頭か、心臓を潰すのが早い」
「……す、すごい」
「魔法が使えないなら、剣ぐらいはいい物を用意しろ。その剣はなまくらすぎる」
俺はせめてものアドバイスをして、立ち去ることにした。
リュミエルは勇者だ。次会うときは敵同士かも知れない。
それはそれで面白い。
「あ、あの!」
「どうした?」
「私はリュミエル・オルトヴィルといいます! あなたは?」
そういえば、自己紹介を済ませていなかった。
オークロードとの戦いの前に名乗っていたので、俺は名前を知っているが向こうは知るまい。
「一般人族のハイラムだ」
「人族でその強さ……。凄い鍛錬をされたのでしょうね」
「……まあ……なんというか。そんなところだ」
転生とか言っても信用されまい。
何しろ、歴史上人族への転生を成功させた者はいないのだ。
「ハイラムさんは命の恩人です。このご恩は忘れません」
「忘れていいよ」
「そんなわけには参りません!」
「じゃあ、この国のこと、この時代のこと、つまり一般常識を教えてくれ」
「一般常識ですか?」
「うまれてからずっと人の居ない山の中にいて、さっき出てきたばかりなんだ」
全く嘘は言っていない。
先ほど山の中で生まれたのだし、出てきたのも先ほどだ。
「特殊な事情がおありなのですね」
「そうなんだ。実はこの国の名前も、どんな制度があるのかも全くわからないんだ」
「わかりました。私のわかることであれば何でもお答えいたします!」
これで、新しく情報を仕入れることが出来そうだ。
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