第10話 史上最強の魔王。勇者の卵を見つける
俺の墓所とヨルムの巣のあった山は、分厚い雲に覆われていた。
麓の方も、雲ではなく濃い霧に覆われている。
「この雲と霧は俺の迷宮のせいだろうな」
「そだねー。陛下の迷宮と墓所のおかげで魔力の流れがおかしい感じだもんね。ヨルムにとっては住みやすかったよ」
「それならよかったよ。あ、それとヨルム。他の人がいる場所では陛下と呼ぶのはやめてくれ」
ヨルムは俺の肩の上にのったまま、首をかしげた。
「なんで?」
「情報収集するのに、魔王だと知られると支障が出るからな」
「わかった! 影に隠れて暗躍するんだね、かっこいい!」
「そういうわけじゃないが……」
山を下りて、ヨルムの案内でしばらく歩くと、小さな道に出た。
「この道をまっすぐ行くと人が住む街があるよ」
「ありがとう。五百年前にはこの辺りには街はなかったからな」
「でも、僕も十年ぐらい巣から出てなかったから、無くなっているかもだよ」
ヨルムはそう言うが、十年程度では街がなくなることは珍しい。
きっと街はあるに違いない。無ければ無いで、そのときに考えればいい。
山を下りたら、天気が良かった。太陽の高さから考えるに、昼過ぎと言ったところだ。
「日の光は気持ちがいいな。古代竜的にはどうなんだ?」
「古代竜によるけど、僕は日光を浴びるの嫌いじゃないよ」
「そうなのか」
「たまに巣から出て、山の頂上で昼寝してたし」
巣のあった山は高い。人間では真夏の昼間でも寒いだろう。
「ところで、ヨルム。いまこの辺りを治めているのは誰かわかるか?」
「わかんない」
「そうか。ヨルムンガンドから何か聞いていないか?」
「うーん。陛下が死んだ後、国が分れて戦争になったってのは聞いた」
「そりゃそうだな。そうなるよな」
だが、ヨルムはそれ以上知らないようだった。
街に入ったら、できる限り早くそのような情報を手に入れたい。
景色を楽しみながら、ゆっくりと街に向かって歩いていると、魔物の気配を感じた。
「強そうな魔物がいるな。街道の側だというのに、治安が悪いな」
「そだねー」
さらにしばらく歩くと、魔物の姿が見えてきた。
俺たちに背を向ける形で、街道に立っている。
「オークだな」
オークは背丈は人の一・五倍近くあり、力が強く、凶暴な魔物だ。
何でも食べるが、エルフや魔族、人族などの人肉全般を特に好む。
「陛下。オークの割に大きくないかな?」
街道で仁王立ちしているそのオークは、背丈は人の倍以上あった。
そして成人男性ぐらいの大きな棍棒を持っている。
「オークロードだろう」
「ロードかー。オークよりずっと強いの?」
「桁が違うな。それでもヨルムよりはずっと弱い」
俺がそういうと、ヨルムは嬉しそうに尻尾を振った。
「あいつなんで、街道に立ってるんだろう」
「確かに怪しいな」
オークが街道に用もなく立ち続けるなど聞いたこともない。
「念のために道を外れて、隠れなから進もう」
「そうだね」
俺とヨルムは気配を消して、道から外れて森の中を歩いて行く。
オークロードは、ずっと立ちつづけている。
どんどん近づいてくと、突然向こうから何者かが馬に乗って走ってきた。
エルフ族の少女だ。
少女は綺麗な長い金髪を後ろでくくり、鎧を身に着け、長剣を腰に差していた。
年の頃は十代半ば。今のハイラムと同じぐらいに見える。
綺麗なエメラルド色の瞳が目を引いた。
少女は馬から下りると、オークロードに向かって剣を突きつけた。
着ている鎧に比して、その剣はなまくらに見えた。
「我が名はリュミエル・オルトヴィル。勅命によりそなたの命もらい受ける」
「UGAAA……」
リュミエルを見てオークロードは嬉しそうに声を上げる。
非常においしそうに見えるのだろう。
「たああああああああああ!」
リュミエルはひるむことなく、オークロードに斬り掛かる。
オークロードは巨大な棍棒でその剣を受け止めた。
重たいはずの棍棒をオークロードは軽々と振るっている。
『あの少女、中々やるな』
『陛下、嫌な予感がするよ』
『む? どういうことだ?』
『あのエルフ、勇者だ。まだ卵だけど』
『勇者だと?』
勇者というのは魔王や強大な竜を倒す存在だ。
聖なる神の加護をうけることで、潜在能力が異常に高い上に、驚異的な速さで成長する。
そして強力無比の固有魔法。魔王も古代竜にとっても勇者は恐るるべき存在だ。
前世の俺は二人の勇者と戦った。勿論勝利したが、二人とも非常に強かった。
『勇者のような気配はしないが』
『それは陛下が人族だからだよ。魔族だったらすぐわかると思う。僕も古代竜だから間違えることはないよ』
竜も勇者に狩られる対象だ。
つまり古代竜のヨルムにとって、天敵のような存在だ。
『ヨルムがそういうならそうなんだろうな』
『陛下。いまのうちに殺しとかない? あいつ今はまだ弱いけど、成長したら手がつけられなくなるよ』
ヨルムはぷるぷると震えながら言った。
強くてもヨルムはまだ幼い竜だ。怖がりでも仕方の無いことだ。
『そう怯えるな。ヨルム。勇者だからといって悪い奴と決まったわけではないからな』
『そっかー』
俺とヨルムが話している間にも、リュミエルとオークロードは戦い続けていた。
リュミエルは勇者だけあって強い。徐々にオークロードを追い詰めていく。
だが、リュミエルの剣が折れた。
『まあ、あの剣じゃなぁ』
リュミエルの使っていた剣は、見栄えだけがいいなまくらだった。
むしろここまでオークロードの棍棒と切り結んだのが凄いと言える。
「ほ、宝剣が!」
だが、リュミエルは剣が折れたことに衝撃を受けたようだ。
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