第9話 現代の魔王。ハイラムの復活を知る
魔王城、その深奥にある玉座に、一人の魔族の女が座っていた。
「なに? もう一度言うがよい」
女の前には一人の男が跪いている。
「ははっ。ハイラムが復活したようだと監視員から報告が入りました」
「……間違いはないのじゃな?」
「別のルートからも報告が入っておりますので、間違いはないかと」
「ふうむ。ハイラムがのう」
女がつぶやくと、そばに控えていた別の男の魔族が言う。
「陛下どうされますか? もしハイラムさ、失礼いたしました。ハイラムが往時の力を持ったまま復活したのならば……」
その男はハイラム様と呼びかけて、慌てて言いなおす。
「……まさか、わらわに譲位せよと申すのではあるまいな?」
「滅相もない。私が仕えるのはイルムガルト魔王陛下ただ一人でありますれば」
魔王イルムガルトは鼻で笑う。
「今は四天王筆頭であるとはいえ、ハイラムが即位すればまた話は変わってくるであろうしな」
恭順したところで、ハイラムがどういう人事をするかは分からないのだ。
だから、今高位の役職にあるものは、ハイラムの魔王即位は望んでいない。
「そんなことは関係ありません。ただただ、陛下への忠義の心ゆえ」
「そうか。それは感心なことじゃ」
イルムガルトは皮肉を込めてそう言った。
「ははぁ」
平伏する四天王筆頭を見下ろしながら、イルムガルトは思う。
ハイラムが全盛期の力を持って復活したのならば、波乱が起きるのは間違いない。
魔族においては力が全てなのだ。そしてハイラムは圧倒的に強かった。
(わらわも強くなったのじゃ。そう簡単に負けることはあるまい。だが……果たして)
イルムガルトは、ハイラムに勝てるかどうかの絶対的な確信は持てなかった。
跪いたままでいた報告者がおずおずと言う。
「陛下。報告には続きが……」
「苦しゅうない。申すがよいのじゃ」
「はっ。復活したハイラムは人族であると」
「……………………それは誠なのかや?」
「はい。確かな情報です」
それを聞いていた四天王筆頭は笑いだす。
「人族だと? 転生魔法は難しい。ハイラムの奴も失敗したのであろう。よりによって人族とは!」
先ほどハイラム様と言いかけたのが嘘のように、言葉に嘲りの色が混じる。
「ほう、人族なのか。そうか。ふむ」
考え込むイルムガルトに四天王筆頭が嬉しそうに言う。
「魔王陛下。たかが人族。恐るるには足りませぬが、仮にもハイラム。よからぬことを考える者も出てくるかも知ません」
担ぎあげようとするものが出てくることは、大いに考えられる。
「それはあり得る話じゃな」
「とりあえず、殺しておきましょう。よろしいですか?」
「…………うむ。そうじゃな。殺せ。殺してその首をわらわの前に持ってくるのじゃ」
「御意」
報告者も退席し、四天王筆頭も動きだす。
一人になったイルムガルトは玉座の間から歩いてバルコニーに出ると、上空を見上げる。
「……ハイラムさまが復活なされたのか」
ハイラムの死後、魔族の国は四つに割れた。
そして四百年の戦いの末、イルムガルトが勝利し魔王として即位したのだ。
「……ハイラムさまが人族じゃと? 弱いハイラムさまはハイラムさまではないのじゃ」
そう魔王イルムガルトはつぶやいた。
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