第7話 史上最強の魔王。古代竜を臣下にする

 ヨルムは首をかしげる。


「覇業?」

「我は今世こそ魔神を殺す。それだけではない。魔神を殺した後は、この世界も支配して見せよう。ヨルムは我に仕え、我が覇業を手伝うがよい」


 ヨルムは真剣な表情でじっと俺を見つめる。


「…………本気なの?」

「このような嘘は言わぬ」

「わかった。古代竜の誇りと命をかけて、ハイラム、いや陛下に仕えるよ!」

「うむ! ヨルムを臣下にできたこと、我にとって僥倖であった」


 古代竜の勇士を臣下にできたのだ。

 俺は優しくヨルムの巨大な頭を撫でた。


「僕にとっても凄く幸運なことだったかもしれないよ。小さい頃会った陛下は僕の憧れだったんだ!」


 そういってヨルムは尻尾をご機嫌に振る。


「そうか。後悔はさせないと約束しよう」


 臣下に仕えて良かったと思われることこそ、王の本懐である。

 そのために王は努力して君臨し続けねばならぬのだ。

 そう俺は考えている。


「陛下、これから僕はどうしたらいい?」

「今のところはヨルムに頼む仕事はないな。魔神の場所を見つけなければならないからな。だから俺が呼ぶまでヨルムは好きにしていいぞ」

「わかった。じゃあ、陛下と一緒に行くね」


 そう言うとヨルムはシュルシュルっと中型犬ぐらいの大きさまで小さくなった。

 その姿は、ヨルムンガンドに連れられて会いに来たときそっくりだ。


「……ヨルムは器用なんだな」

「僕は古代竜の中でも、特に器用な方なんだよ」


 そう自慢げに言いながら、ヨルムは俺の肩に乗る。

 ヨルムは中型犬よりも軽かった。魔力で浮いているのかも知れない。


 俺の肩に乗った状態でヨルムは言う。


「それにしても陛下は凄いね。人族への転生を果たすなんて。父ちゃんが言うには人族へ転生した成功例はないらしいよ」

「俺に人族に転生しろっていったのは、竜王ヨルムンガンドなんだけどな」

「父ちゃんは陛下なら成功させるだろうって言ってた」


 ヨルムが墓所の近くに巣を作っていたのは、ヨルムンガンドが俺を助けるためにしてくれたのだろう。

 だから、ヨルムは転生魔法や魔神についても詳しいに違いない。


「父ちゃんはレベルって言っていたけど、戦えば戦うほどレベルが上がって能力値が高くなるんだって」

「レベルというのはわからないが、戦うほど強くなるというのは感覚として正しいな」


 ヨルムンガンドは時折、レベルとか、そういうわけのわからないことを言う古代竜だった。


「人族はレベルアップが遅いかわりに、レベルが上がったときの能力上昇値は高いんだよ」

「そういえば、そのようなことをヨルムンガンドから聞いたことがあったな」


 俺の人族が実は強い知識も、元はと言えばヨルムンガンドから聞いたものだ。


「ぼくも父ちゃんがなんで、そんなことを教えてくれるのかわからなかったけど、理由がわかったよ。陛下に教えるためだったんだね!」


 そういって、ヨルムは嬉しそうに尻尾を振った。


「父ちゃんは強くてニューライフなら人族が最強って言ってたよ」


 ヨルムンガンドは、相変わらずよくわからない言葉を使う。


「初めて聞く言葉だが、なんとなく意味はわかる」


 前世の俺の生涯は戦いの連続だった。

 生まれた直後から、それこそ、死ぬまでだ。


 あらゆる強敵を倒し、世界を統一したほどだ。

 その過程で得たレベルを、人族に持ち越したということだろう。


「神も想定外だろうね! さすが陛下! 神殺しも遠くないかも」


 ヨルムが期待のこもった目で見つめてくるが、俺はそこまで楽観視はしていない。

 魔族と人族の体の違いは、確実にあるのだ。馴染ませるにはある程度時間はかかるだろう。


 それに肝心の魔神の居場所がわからない。


「あ、そうだ。陛下は転生したばかりならお金がないでしょう? ここにある財宝好きに使っていいよ」

「いいのか? 竜にとって、財宝を集めは大切な趣味だと思うが……」


 個人、いや個竜の趣味は大切なものだ。

 俺は、余程のことがない限り臣下の趣味を尊重することにしている。


「僕はあまり財宝集めには興味ないんだ。古代竜のみんなに付き合って集めていただけだよ」

「そうなのか。竜にも色々居るんだなぁ」


 ヨルムの父であるヨルムンガンドは財宝集めが好きだったと思う。


「陛下の軍資金にしてよ」

「では、借りておこう。後で必ず返す」


 税でもないのに臣下から一方的に財を奪うのは俺の主義に反するのだ。


「返さなくてもいいけど、陛下がそう言うなら待ってるね」

「安心して待っていてくれ」

「魔王として君臨した後に返してもらうことにするよ」


 ヨルムはそう言って、嬉しそうに尻尾を振った。

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